その寝顔が余りに可愛いものだから、ついうっかりカメラを手にしていた。ぱしゃ、ぱしゃぱしゃ。気づけば連写していて、おまけにその目はぱっちり開いていて、レンズ越しに三郎の鋭い視線が突き刺さった。


「今なら怒らないから、カメラを渡せ」

「それ怒ってますよね?マジギレっすよね鉢屋さん」


寝起きなことも相俟って、地を這うような低音が耳朶を打つ。この状況でなければエロいなぁ、とかムラムラするなぁ、とか冗談言えるのに。カメラを胸に抱え、ゆっくり退避しつつそんなことを思った。


「なまえ、カメラを渡せ」

「渡したらデータ消すからやだ」


後でプリントアウトして皆に自慢してやるんだいやい。低血圧な三郎が本格的に動けるようになる前にじりじりと下がっていく。三十六計逃げるにしかず。とりあえず逃げてデータをメモリに移してしまえばこっちのものだ。頭のなかでキャンパス内の地図を思い浮かべて、最短経路を弾きだす。


「文句は聞かないから!じゃねっ!」


だっ、と駆け出して、ドアを閉める寸前。ぎゅっ、と眉間に皺を寄せて頭を押さえている三郎の姿が見えた。あ。そう言えば寝起きは偏頭痛ひどいって言ってたっけ。どくり、と急に罪悪感が胸を占めた。


「うううー………」


選択肢を浮かべるでもない、選ぶのは一つだ。三郎以外なんて選べるわけない。ついさっき閉じたばかりのドアを開けて、カメラをその辺に捨て置いた。がばっと勢いよく抱きつけば、ややあって強く抱き返される。さらばすやすやおねむの三郎、せめて待受に設定したかった!未練たらたらなこの心を鎮めるためにぐりぐりと三郎の肩におでこを寄せると、この間プレゼントした香水の匂いがした。あぁもう、さりげなくそんなことして、これ以上好きになりようがないじゃないか。


「で、何で戻ってきたんだよ。データ消すぞ?」

「だって、三郎よりデータを取るなんて私には出来ないもん。私にはどんなにレアショットでも本物の三郎の方がずっとカッコいいし、可愛いもん」

「………おま、」


急に抱き締める力を強くされて、地味に骨が軋む。痛いよと三郎の顔を見ればペンキでも被ったみたいに真っ赤で、カメラに納めておきたいほど可愛くて。


「今の顔、すっごく写真に撮りたい」





photograph
(大好きな君でメモリは満タン)





「絶対にだめだ」

「えー、撮りたいー」

「だめ」


膨れてほっぺにちゅうと吸い付けば、ちゅう吸い返された。まぁ、いいや。今日はこれでごまかされてあげよう。





 
三郎は偏頭痛持ちだと美味しい。ただ、大学のキャンパスでこんなことしてる奴らおったらぶん殴ると思う。
 



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