ショーウィンドウの中でモデルのようなポーズを取ったマネキン達の内の一体が目に留まる。ふわふわした水色のワンピース。切り替えはハイウエストで少しばかり丈が短いけれど、きっとなまえに似合うだろう。いつもはワンピースはおろかスカートさえ履きたがらないなまえが微妙な顔をするのが分かっていながら、気付けばそのマネキン一式購入していた。着てくれなかったらどうしよう、なんて思いながら歩みは軽快にアスファルトを叩く。ふと気がつけばなまえのマンションの部屋のドアが目前に存在していた。ピンポーン。気の抜けたチャイムが鳴る。


「…何、どしたの勘ちゃん」


そろりと開いたドアの隙間から驚いた顔をした彼女が覗く。そういや連絡入れてなかったな、なんて後悔しながら手に持ったケーキ屋の箱を掲げれば、さっきまでの不信感が嘘みたいにゆるゆる解けて歓迎体制に変わった。現金だなぁ、もう。


「なまえに会いたかったから、来ちゃった」

「まぁ、ケーキ持ってきてくれたし、別にいいんだけどね」


どうぞ、と置かれたスリッパは俺専用の物で、ちょっとした優越感が胸を占める。鼻唄なんか歌いながら、キッチンに立つなまえは今日もまた浅いベージュのパンツで。やっぱり失敗したかも、なんて思ったりしてしまう。


「てか、さ」

「ん?」

「その紙袋どしたのよ、それレディースのブランドじゃなかった?」

「あぁ、これ、なまえへのプレゼント」

「え、あれ、今日なんかの記念日だっけ…」

「いや?俺の気分だよ?」


あぁもう、ビックリした、と胸を撫で下ろしたなまえへ期待を寄せる。どうか喜んでくれますように。開けていい?と聞いたなまえにどうぞ、と紙袋を差し出せば嬉しそうに微笑まれた。がさごそ。包装紙が音を立てて、それから件のワンピースがその愛らしい全貌が晒けだされる。大きく開かれた目は穴が空くほどそれを見つめていて、俺は思わず息を飲んだ。


「勘ちゃん」

「あー…駄目だった?」

「あたしにこれ、着てほしい?」

「そりゃ、折角プレゼントしたから」


着てほしいけど。言い訳がましくそう言えば、なまえは俯いたまま立ち上がった。


「じゃ、デートしよう」

「え」

「あたし、観たい映画あるの」


ぱちぱちと手際よくタグを切って、なんの恥じらいも無しに着替え始めたなまえに俺は少なからず驚いて、とりあえず目を覆った。もしかして怒ってないとか。


「なまえ、」

「んー?」

「そういう服嫌いじゃなかった?」

「好きじゃないよ」


あぁ、やっぱり。結構なショックを受けて肩を落としていると、でも、と小さな声が続く。


「折角勘ちゃんが買ってくれたんだし、勘ちゃんがあたしにこんな格好してほしいと思ってるなら、叶えてあげたいもん」


指の隙間から見えるなまえはショートケーキの苺みたいに真っ赤で、多分、世界で一番、可愛かった。





Please,Fashion Honey!
(可愛い君のその可愛い装い)
(食べちゃいたい)





 
Twitterにて募集したリク【現パロ五年の誰か】です。かんちゃんに捧げちゃうぜ!
 






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