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クラスメイトにも慣れてきて、問題児を何人か抱えつつも楽しく過ごしていた。
今は部活の仮入部を決める期間中。 風紀委員に入ったものの、部活まで同じ剣道部に入るか迷っていると、近藤さんが体験入部を1日やらせてくれるというので放課後道場に向かうことになった。
「めぇぇえんん」
パァン
「一本っ
はははっやっぱり格が違うな、陽は。」
「いや、先輩に手加減してもらってますから…」
「いやいや、こっちも結構頑張っちゃったよ。陽ちゃん、だっけ?」
「はい。相手して頂いて、ありがとうございました」
最初は見学だけだったのに、近藤さんの気遣いで模擬試合もやらせてもらった。相手をしてくれた部長も含め、近藤さん以外の先輩達も良い人ばかりだ。
「女のくせに調子のってんじゃねぇよっ…」
「はいどーどー、多村先輩。」
「んがっ、おい沖田!何すんだ!」
「先輩が女々しいことを小声でブツブツ行ってたんで構ってほしいのかと思いやして」
「なんだとっ!お前も一番下っ端のくせに…!」
…と思いきや、ぽっと出の女子生徒が実力のある先輩や部長にチヤホヤされるのを、気にくわないと思う人もいる。 小声なのが功を奏したのか、部長たちの耳に入っていない。 アタシだって、こうなることは覚悟の上でこの道場に踏み込んだのだ。慎んで受け止める…
「それでは…一試合よろしいですか?多村先輩、?」
筈もなく、寧ろ捩じ伏せてわからせてやると瞳に野心を灯していた。昔から、日常茶飯事の如く眺めてきた風紀委員の面々は苦笑いしかない。 後ろの方でトシさんのため息声が聞こえた気がした。
*****
「し、失礼します…」
その頃継実は、家庭科室へと訪れていた。 他の部活動も気になったが、あの時の事が脳裏から離れず掲示板で見かけた調理部へ行ってみようと思ったのだ。 銀時とは、あの時から会う事が出来ずにいた。会ったら継実が敵前逃亡する可能性もあったが、それすら叶わなかった。
何度もみたポスターを思い出してそこに書かれていた部屋へと訪れたのは良いが、残念なことに人気が全くなかった。 恐る恐るドアを開けて、声をかけてみたが返事がない。どうしたものかと焦っていると不意に後ろに人の気配がした。
「あら、継実ちゃん?」
「!妙さん!」
そこには中学時代から付き合いのあるお妙の姿があった。 再会できた嬉しさと知り合いの安心感で継実は顔を綻ばせた。
「どうしたの?こんな所で…もしかして調理部に?」
「うん!まさか妙さんがここの部員だったなんて…」
「ふふっ、また会えて嬉しいわ。」
「何やってるのよ、そんなところで。」
妙も部員だと聞いて、さらにここに入部したい気持ちが高まる中、継実がやって来た方向から声をかけられた。
「あら、珍しいこともあるものね。」
「私は銀さんに会いに来ただけよ。他の理由なんてあるわけないでしょ。」
そこには薄紫の艶やかな髪を腰あたりまで伸ばした、赤縁眼鏡の美女が立っていた。身長や体型も申し分ない、完璧と言える容姿だ。
(...え?、今、、)
「で?私のダーリンはどこにいるのかしら?」
(こ、この人…坂田さんの、、)
容姿端麗な年上の女子生徒。銀時のことを親しげに銀さんと呼び、あまつさえダーリンと呼んだ… そこで一つの答えにたどり着いた継実は、思考が完全にショートし、妙がかける言葉に応える事が出来かった。
*****
「、はぁぁあああっ」
バシィンっ
「…一本。勝者陽。」
「っは、ありがとうございました…」
相手もプライドが高いだけあって、時間がかかりはしたが何とか勝つことが出来た。 多村先輩は相当悔しそうにしているが、どこか納得したような表情をしていて、それを見て自分の中でもひと段落ついたような感覚になる。
試合が終わったのを皮切りに部員達が片付けや清掃を始める。手伝おうとすると、トシさんに少し休めと制された。 二連続で休憩も挟まずの試合だったため、その言葉に甘えることにした。
「オイ」
「、?」
「脚貸せ。」
道場の壁に寄りかかって座ると、制服を着た恐らく部員ではない男子生徒が救急箱を片手に歩いて来た。私に治療をするつもりらしい。 運の良いことに部員は作業をしたり、着替えに向かったりとこちらに気づいている人はいない。
「へ?別に何も怪我なんて」
「左、重心をかけすぎて試合中に挫いたろ。」
「、!」
「サッサとしろ、あいつらにはバレたくねぇんだろ?」
「...。」
久々の試合だったからか、無駄に左足に負担をかけていたのは事実だ。まさか初対面の人に見抜かれるとは思わなかった。 内心驚きつつも、脚を出すと救急箱の中から取り出した湿布を踝の辺りに貼り付けられる。
「ケガ隠してるの、そんなにわかりやすかった?」
「...みる奴が見れば、わかるんじゃねぇの。」
怪我をしたことは誰にもバレたくなくて隠してたのに、本末転倒だ。きっと、トシさんの言葉も私の体を気遣ってのものだったのだろう。 強がって虚勢を張っている自分が恥ずかしくて情け無い。
「...かっこわる。」
「バカにしてた野郎を倒した。それで充分だろ。」
テーピングで固定をしながら男子生徒は呟いた。
「み、見たの…?」
「まぁ、よかったんじゃねぇの」
怪我を見抜いたのだから当たり前なのだが、試合に至るまでの一部始終も見られていたらしい。救急箱を片手に男子生徒は立ち上がった。
「良いもん見させてもらったからなァ、見物料だ。」
「あ、ちょっと!」
テーピングされた脚を見ながらそう言われ、驚きつつも納得している自分がいた。踵を返した男子生徒に待ったの声をかけようとすると、男子生徒が振り返った。
「お前の剣、嫌いじゃねェ」
精々舐められねぇように精進するんだな。 一方的に言いたいことだけ伝えた男子生徒は、今度こそ本当に去っていった。
(...なにあれ、なんなの、というか誰、)
思考は純粋な疑問で満たされているというのに、脳内は先ほどの台詞や表情を何度もリプレイさせていて、心臓は比例するように鼓動を速めるばかり。
(嫌いじゃないって、、それはつまり...)
「おーい!そろそろ着替え、て!?ちょ、陽!?」
「何やってんだ、アイツは…」
「ついに脳みそまでイかれちまったんじゃねぇですか。 土方さんみたいに」
「俺関係ねぇだろうがっ!!」
そこには一心不乱に壁に頭を打ち付けている陽がいた。
入部体験
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