簡単に言ってしまえば、すべては彼女のためだったってこと。 全部彼女のために動いていたということ、 全部彼女のために殺していたということ、 全部、 彼女のために、生きてきたということだった。 すべてが狂ってしまったのはいつだったのだろうか。 それを考えてしまえば本は全部同じ。 全部同じ始まりから生まれたものだった。 そう、 彼女に出会ったことが俺の人生の中で最大の幸運であり、最悪の巡り合わせでもあったのだろう。 最初はただ、あの人が笑っているだけでよかった。 幸せであればよいと思い、彼女の恋路を応援し、手伝い、あまつさえ嘘もついた。 俺に笑顔向けられていなくとも、俺を想っていなくとも、あの人が幸せだと少しでも感じてくれれば俺はよかったのに。 なのに、 笑わない、笑顔にならない。 笑ったとしても、偽りの笑みでしかない。 笑うどころか、泣いていた。泣いていたのだ。 その金色の瞳に涙を湛え、その黒く長い睫毛を濡らす。 ただ許せなかった。 あの人を不幸にさせるすべてが、あいつが、あいつらが…… 俺なら、"彼女"を泣かせたりなんかしないのに…… 憎悪は膨らみ、いつしか狂気と成す。 長い時間、耐えてきた叶わぬ恋慕はすでに歪みきっていた。 そして、今。 「はは……、」 茜色の空の下。広がる黒に似た赤に乾いた笑い声が漏れた。 割れた食器、散らばる水瓶の中身、散った花びら。 その家にあった筈のしあわせは、すでにどこかへと飛び去ってしまっている。 俺が仕掛けたことなのに、あぁ、なんということだろうか。 酷い有様だ。 「迎えに来たつもりだったのに、な」 ぴちゃぴちゃと鳴る床を進んでいく。 その先にずっと欲しかったものがあるのに、もう、手に入るはずなのに。 手を伸ばせば、もう掴める。そんな距離まで入れたというのに。 歩みを止め、下を見る。 散らばる長い黒と紫。赤に変わった白のストール。絡み合う白。 ――幸せそうに眠る、彼女―― あぁ、俺には敵わない。 転がる二つの骸に、不思議と絶望は感じなかった。 金色 ----------------- とある男の追想。 とある物語のすべての原因。 |