大事なものを見つけたくて、それで闇の世界に入った。 元から生きることさえも許されないような私達にとって、闇は光同然だった。否、ヒカリなんてなかった。 あるのは一筋の、小さなクラヤミだけ。 「シエラ。今日の仕事、覚えているな?」 「うん、大丈夫。覚えてる」 隣から聞こえる低い響きに答える。太陽がすでに紫に空を映していた。 双子の弟であるはずの男は、私の片割でもあるのに何かが違う。何かはすでにわかりきっているけれど、それをわざわざ言葉にするのも億劫で、ただ現実にあるものだけで理解しようとする。 違う、ことばにする必要がないんだ。だって一目見たらわかるもの。 異端の人間は悪魔で、化け物。 両手両足の繋がった化け物。 私、シエラザード・カスタールと、アルフレード・ポルデトータは二つで一人。 シエラの右腕とアルの左腕は繋がっていて、 アルの左足とシエラの右足は繋がっている。 異形の人間。 生まれてはいけない子供達。 それが私と彼。 今の王に拾われた私達はこの国で犯罪を犯していた。犯罪といっても、王から命じられた行為が全て法に背いているだけのことなのだけど。王直属の特殊機関、それが私達の組織だから。 義賊、と呼ばれるようになったのはいつのことか。 ジェントランと呼ばれるようになったのはいつのことか。 覚えているのはただ、着実に仕事を、王からの命令をこなすことだけなのだけど、何故、このようなことになったのかはわからない。 疎まれるのも、蔑まれることも、ヒト扱いされないことにも慣れた私達に感情は無いはずだから全て無意味。 必要なものは、水と、食料と、睡眠と、王からの命令。 それさえあれば私達は生きていける。化け物の私達には飼い主が必要だから、主からの命令は絶対になければならないもの。それがなくなれば、存在している意味も無くなる。無くなって、すべてが消えるのなら、それも運命なのだと受け入れるけど。 ―必要とされたいのは、みんな同じだから。― かつて王に言われた言葉の意味を理解できたのはごく最近なのだけど。 必要とされるから生きる。生き残りたいから必要とする。 当たり前が当たり前ではない私にとってその言葉は綺麗すぎている。だけどそれでしか私の存在意義は表せられないから、この言葉に縋るしかないんだ。 生きる意味、それは誰かに必要とされること。 「・・・ではこの少年を救出するのが最優先事項だと」 「そうだな。こいつはこの国に必要だ」 「何故ですか?」 「それを話すのはまだ早いんだ。すまないな、アル」 「いいえ、俺は何も言っていませんから、陛下が気になさることはありません」 「・・・シエラ。お前は大丈夫か?」 「えっ!?」 「先ほどからずっと黙り込んでいるが・・・」 「いっ、いいえ!私は大丈夫です、陛下」 「そうか、では、よろしく頼んだ」 王の部屋を出て、まずアルに頭を叩かれた。手加減はしてくれたみたいだけど・・・痛かった。 「何するの?」 「何をする、じゃない。陛下の御前であんな風に呆けていたら失礼だろう。気をつけろ」 「・・・ごめん」 痛みの残る頭を撫で、謝る。 「・・・今回の任務の追加事項、覚えているか?」 「・・・人質の救出。」 「ほかは?」 「最優先事項はそれ」 「いいだろう」 任務の指令書を受け取り、それを読み返す。そこに添付されている一つの絵姿に違和感を感じた。これは・・・ 「この男の子、なんとなく陛下に似てるね」 「・・・そうだな」 「サイラス・レーダ、か。うん、覚えたよ」 指令書をアルの方に差し出せば、アルはすぐにそれを受け取り近くの外灯の火にかざし燃やした。 先ほどまで紫だった空はすでに濃紺よりも黒くなっている。いくつもの星の中に、銀の月がはえる夜。 私達の時間だ。 「行くぞ」 「うん」 長いマントを翻し、夜の闇に足を踏み入れる。 生きる理由のために、私達はこれから犯罪を犯すのだ。 さぁ、これからが私達の舞台。 ーーーーー 支部に載せてたやつひっぱってきましたー。 シエラの独白。 ついでに、部誌の嘘偽りを銀の月にかくすと繋がってます。 2012/10/28 |