03


目が開かない。まだ寝ていたい。でもなんだか誰かの気配がする。ごそごそと手を伸ばすと何かふわふわしたものに触れた。なんだろう、安心する匂い…あ、これ鮫ちゃんだ。ようやく帰ってきた、私の…

「あ、起きた」

目が覚めて、真っ先に視界に飛び込んできたのは、頭の中の銀色とは対の、金色だった。

「辛うじて生きているのか、それとも死んで悪魔とこんにちはなのか…」
「ししし、どっちが良い?希望通りにしてやるよ」
「あー、生きてるって素晴らしいわー」
「棒読みじゃん」

よっこいせ、とベッドから這い上がるととたんに響く太もも。そういや撃たれたんだっけ。うわあ、今までにないレベルのヘマ過ぎて思い出すだけで泣きたくなる。ボフン、布団にまた逆戻りするもその勢いがよすぎたせいだろう、鋭い痛みが走る。

「ねえ、ベルフェゴール」
「あーそれこないだ言おうと思ったけど、長いし面倒くせーからベルで良い」
「…じゃあ、ベル、私これ見る限り生きてるんだけど」
「そりゃ生かされてるんだから当たり前だろ。前から思ってたけどお前バカだよな」
「自分よりいくつも下の子供に言われるって相当癪だけどこれは認めるわ」
「ししし、張り合いねえの」

張り合いなんてあってたまるか。そうひとにらみしてからふと気が付く。私あの時任務してたんだ、スクアーロと。途端にいてもたってもいられなくなって、ベルフェゴールの隊服の裾をつかむ。ムッとされたけど知ったこっちゃない。

「任務は!?スクアーロは!!?」
「今更かよ。任務は無事遂行、主にスク先輩のおかげでな。あいつが血まみれのお前引き摺って帰って来なかったらお前今頃出血多量でまじにお陀仏だったってよ。んでアイツは自分の部屋で寝てんじゃねえの」
「…そっ、か。ありがとう」
「後ここからはスクアーロからの伝言な」
「?うん」

とりあえず私のせいで任務が失敗という結果にならなかったことはひとまず安心していいだろう。足を引っ張ったことには変わりがないけど。次さえ与えてもらえるのならば、それはこれから巻き返すということで。意気込んで、スクアーロの伝言だというベルフェゴールの言葉を待つ。内心首を言い渡されるのではないかとびくびくしているのは内緒だ。でもたぶんぎゅっと握りしめるシーツにしわが寄っているから、目の前の天才にはお見通しだろう。悔しいことに、こういう時に本当に暗殺者なのかと疑問には思う。

「『抜けるんならこれが最後のチャンスだ』…だってさ」
「は?」
「は?じゃねえよ、アホヅラ」
「いやいや。そんなこと許されるわけ?足引っ張った責任取って物理的に首切られるならまだわかるけど」
「あ、斬られてーなら王子に言えよ、喜んで殺ってやるから」
「それはないから大丈夫。自殺願望とかないし。…スクアーロが本当にそう言ったわけ?」
「嘘なんてつくかよ、そんな面倒くせえもん」

でもそれ以上にスクアーロは面倒くせえ段階踏んで、お前が抜けられるような手続踏んでたっぽいよ。そういわれて、なにかが切れた音がした。そう、思い切り良い音を立ててブチ、と。

「だからってあいつも…って」
「ありがとうベルアイツ隣で寝てんだよね?」
「…しししっ、そーだよ」

さっきまでの痛みは何のその、とばかりに布団を剥いで部屋を出る私。それにベルは笑っていってらと言うだけだった。多少引きずるようになるけれど歩けないケガじゃない。それこそ、学生時代に毎日のようにケガして帰ってきたバカに比べれば可愛い方だと思う。ちらりと包帯越しにしか見てないけど。たぶん。

隣の部屋、ということもあり、スクアーロの部屋にはすぐにつく。コンコンコン。3回ノックをして返事を聞くこともなくガチャリと開ける。学生時代から散々私の部屋に不法侵入してきたんだ、そんくらい大目に見ろ。今と立場が違うと言われても、それはそれだ。

急な来訪者の気配にさすがに気が付いたのだろう、スクアーロが起き上がる。それが私だということに驚いて動きが止まる瞬間に、ケガした逆足を軸にして思い切り足を振り回した。

「う゛お゛ぉい!何しやがる名前!しかもそっちケガしたほうだろうがぁ!!!」
「安心しろ今アドレナリンやらなんやらの交感神経がばちばちに興奮してっから痛みなんて感じねえよ!!ンなことより何あの伝言は!!」
「あ゛ぁ!?んだ、辞める気にでもなったかぁ」
「やめないわ!!私がどんだけここに入りたかったかあんた知らないだろうけどね!こっちは死に物狂いで毎日やってたの!なぜか私よりも先に入隊して幹部にまでなったバカ追っかけてね!!」

私がここをやめる時が来るならそれは、くびにされた時か殉職するときだけだ!!

そこまで叫ぶと、面食らったようにぽかんとアホヅラするスクアーロ。気まずそうに、肩まで伸びた髪をかき混ぜる。

「…言っておくがお前はまだ正式な入隊ってわけじゃねえぞぉ」
「はぁ?そんなこと当たり前じゃないの。だってXANXUS様に認められてないもん私」
「わかってんのかぁ」
「どこの世界にトップが認めないうちに入隊決定してるのがいるのよ。いくら下っ端でもないでしょーが」

そういうとスクアーロははあ、とため息をついた後に、辞める気はねえのかぁと再度聞いてきた。


9.1
ひっさびさの更新すいません。とか言いながら1時間クオリティ。
鮫誕早く終わらせなきゃとは思えど書けと言われると書く気失せる天邪鬼なので、気分が乗ったんで書いてみました。



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