01
「お前は今日から俺の下についてもらう。実力的にも適任だろぉ」
「あれ、剣帝倒した男の下につくほど認められてるって考えて言い訳?」
「フン、てめぇの判断に任せてやる」
ヴァリアーの廊下を歩きながら、元同級生でこれからは上司になる男と話す。1年前までは同じ学校に通う仲のいい友人だった。互いに剣を扱う人間だからだろうか、妙に波長が合い、よく一緒にいたものだ。去年の3月…ちょうど今ごとのことだ…に唐突に学校をやめてヴァリアーの当時のトップだった剣帝のテュールと戦い、ボンゴレ9代目の息子であるXANXUS様に惚れたとか言って、そのままヴァリアーに入っていったというかわりもののスクアーロ。会わなくなって約一年。しかし、その間の彼の動向は風のうわさで聞いていた。
ボンゴレを裏切るヴァリアーの反逆行為。罰せられ、周りからはよく思われていないことも知っている。まあ普通に暗殺部隊だし。人殺しの集団だし。キャバッローネにも誘いを受けた。ディーノや親友のクイナもいる。でも、それでも私が選んだのはヴァリアーだ。大概あんたも頑固よね、とクイナにもバカにされた。もしかしたら敵対するかもしれないというのに、私がやりたいようにやりなよと背中を押してくれて、今でも相談にも乗ってくれた親友には今でも頭が上がらない。
「まずは幹部連中に挨拶だなぁ。俺のほかにも数人いるし、お前も覚えておく必要があるだろぉ」
「了解」
「それが終わったらお前は今日は休め。部屋は用意してある。中はあとで誰かに聞け。明日からこき使ってやるから覚悟しとくんだなぁ」
「当然よ。どんなのだって受けて立ってやるわ」
肩にもうすぐつきそうなきれいな銀糸を振りながらスクアーロは扉を開けた。中にいるのは、うわあ噂に聞いてたヴァリアーの幹部たち。背筋が自然と伸びる。
「なに、スクアーロ隊長、こんな時期に女連れ込んでんの」
「違うに決まってんだろうがぁ!俺はこんな女頼まれてもごめんだぁ。昨日の会議で伝えただろう、新人の名字名前だぁ」
「はじめまして。名字です」
名乗ると同時に飛んでくるナイフ。迷いなく脳と心臓を狙うあたり本気とは言えないが、死んでも構わないとでもいう攻撃。これならと避けつつ、投げた相手を見る。目を隠すくらいの金髪にティアラ、そしてナイフ。こいつが噂のベルフェゴール、切り裂き王子プリンス・ゼ・リッパーか。確か10歳にも満たないと聞いたけど、えげつないナイフ投げんなこいつ。背は小さいけど、なんて思ってから頭を振る。この世界は実力主義、そんなの知っていたはずじゃない。
「へえ、王子のナイフ避けるなんてやるじゃん」
「私にも意地とプライドってもんがあるのよ。いくら切り裂き王子とはいえ、本気でもないのに殺されたりなんてしない」
「へえ、言うじゃん」
「ベルちゃん、そろそろおやめなさいな。私はルッスーリアよ。よろしくね名前ちゃん。あっちに座ってるのがレヴィ、こっちがマーモンよ」
「よろしくおねがいします」
「フン、女が。足を引っ張らないようにせいぜい働くんだな」
「まあ僕たちに迷惑がかからなければいいんじゃない?関係ないだろ」
「んま、二人ともひどいわねぇ」
いやいや、ひどいといっても、逆に仲良くしようねよろしくね!!みたいな歓迎を行けたらそっちのほうが困るわ。毎日人が死んで殺していく環境で、いちいち部下なんて覚えてたらキリがない。まあ初めからわかってたことである。スクアーロ曰く、新しい人間が入ってきても紹介なんてしないっていうし、私はたぶん優遇されているほうだとは思うけど。っていうか自分の直属の部下の名前も覚えられるか微妙だよなあ。私人の名前覚えるの苦手だから、学校のクラスも数か月かかるくらいだし…。
「こいつは俺の下に置くぞぉ。今日は顔見せるだけだから、使うのは明日からだぁ」
「ふーん。まあ気が向いたら王子が遊んでやるよ、名前」
「それが死なない遊びなら喜んで、っていいたくなるけど」
「お前の努力次第じゃね」
「だろうと思ってたわ」
わたしよりも一回りも二回りもちいさい身体でたぶん私よりも数倍強い。まあそれはここにいる幹部みんなが当てはなるんだと思うけど、こういう風に強い人と向き合うと私がいかに未熟かってのを思い知る。「そろそろ戻るぞぉ」とスクアーロに言われたため、部屋を出ようと足を一歩だしたとき。
「あ、そういえば名前」
ふと思い出したように顔を上げるベルフェゴール。「なに」と返せば、にやりと笑う。
「お前、スクアーロの部屋のサメのぬいぐるみの持ち主?」
「え?…ああ、あのぬいぐるみね、そうよ。去年スクアーロに持ってかれた私のもの。せっかくだし今日返してもらおうと思ってたけど」
「ふーん。やっぱりスクアーロ自分の女連れてきたんじゃん。」
「ちがうって言ってんだろうがぁ!」
「まあ、スクちゃんたら素直じゃないのねえ。いいじゃない職場恋愛。あこがれちゃうわ〜!」
「任務に市場を入れるなんて言語道断だぞ」
「てめえらは黙ってろ、ベル、ルッス、レヴィ!!」
黙るべきはてめえだよスクアーロ。とはこの中で一番下の私が言えるはずもなく、めんどうになったから適当にしつれーしましたーと言って部屋を出たのだった。
…………あ、私の部屋わかんないからどのみち戻れないわ。
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