「おっ、三輪」

三輪隊隊室前。ノックしようとしたまさにそのとき、開いたドアの奥からここの隊の隊長が出てきた。

「陽介なら確か個人戦をしにブースの方に行っている…、いや、奈良坂か?」
「そ。いる?」
「ああ。入れ」

俺の手元、ビニールの中を見て判断したのだろう、そのまま部屋に入る。普段は槍バカ誘うときくらいしか来ないここは、今の俺がいて良い空気ではない気もするが致し方ない。奥で机に向かう…おそらく勉強をしているであろう奈良坂に声をかけると振り向き、三輪と同じ返答をする。

「陽介ならブースに行くと言っていたぞ?」
「知ってるよ。今日はおまえだよ、用あるの」

そういって、さっきと同じようにビニールを軽く持ち上げた。さっきスーパーで買ってきたたけのこの里だ。今回のことで、世話になったからその礼。ボーダー内ナンバーワンのたけのこ派のコイツなら喜んでくれるだろう。机の上に置きながら話をする。

「アイツ迷惑かけただろ。悪かったな」
「いや、今回は仕方ないだろう。遠征前は訓練も多くなると聞くし、会えなくなるのは仕方ない」
「まあそうなんだけどさ。おまえがあいつの話聞いてなかったらたぶん、俺ずっと話さなかったし」
「…話したのか?」
「一応な」

大丈夫なのか?の答えはわからない、だ。アイツが他言する可能性はゼロとしても、これから遠征がある度に心配をかけさせると言うことに於いては考えざるを得ない。
遠征は緊急脱出ベイルアウトもねえし、いつ命を落とすかも分からないからと遺書の提出まで義務づけられている。さすがにそこまでは名前には言ってないが、危ないということはよく分かっているだろう。

「まあ当分は遠征ねえらしいし、今んとこは平気だよ」
「おまえたちがそれで良いなら俺は口を出す気はないが、たけのこに関しては名字とはえらい差だな」

さっそく袋から出して食べ始める奈良坂。いつみても普段無表情のくせに、随分とうまそうに食う。…いやそんなことはどうでも良い。

「…アイツまた何かしでかしたか?」
「昼休みに『お世話になったからね!ありがとでした!』とたけのこを一粒置いていった」
「アイツ…わるいな本当に…」

一粒って。俺のようにまとめ買いとは言わないが、せめて箱にしろよ。今はここにはいない名前に文句言う。おまえ俺より世話んなってるだろ。
そしてふと思い出したのは、今日きた目的。いや、たけのこ渡すのがメインだけど、それだけではなかったのだ。

「奈良坂と名前って普段から仲良いのか?」
「いや、そうではないが…嫉妬か?」
「違うっつーの」

さも興味なさそうにたけのこの里頬張るやつにどう嫉妬しろと。それに、女友達ならまだしも俺の目の届かないところで知らないヤローに相談するなんてのに比べたらよっぽども良い。奈良坂なら信頼できるのも大きい。
そう言うと、まあそうかもしれないな、と納得してくれたようだ。

「たけのこになるならいくらでも相談くらい受けるぞ。まあ初めは出水のことだとは知らなかったが」
「あー、アイツ奈良坂がボーダーってのも知らなかったみてーだしな」
「どうやら俺は『真面目にみえるのにさぼり魔』だったらしい。おまえも自分の隊こと話していなかったんだろう」

まあ今は大抵のことは言ってしまったが、言う前はある意味意地になっていたところもあった。ボーダーと一般人との壁は厚い。名前に遠くに見られたくなかったのかもしれない。とにかく俺の単なるわがままだな。太刀川さんや柚宇さんと名前が面識あるのも、アイツのバイト先が太刀川さんと俺御用達の肉(コロッケ)屋だからだ。そうでもなければ、会うことも会わせることも無かっただろう。

「出水が言わないから『奈良坂くんはA級って言われても納得できるけど、太刀川さんと公平と国近さんでしょ?本当に強いの?…え゙っ一位!?なんで!!?』とまで言われていたぞ。太刀川さんたちからしたらとんだとばっちりだ」
「まあアイツから見た太刀川隊は単位の危ない大学生とゲーマー女子高生と俺だからな…。確か唯我には会ってねえはずだし」
「…おまえたちの隊はそれで良いのか」

良いも何も、逆に太刀川さんが毎日ちゃんと規則正しい生活してレポートも期日前に終わらせ俺たちの手を煩わせることもなく、柚宇さんがゲームをやめたらそれは俺の知ってる太刀川隊じゃない。アイデンティティ捨てるようなもんだ。まあ太刀川さんはもう少し俺たちに頼らずにしっかり大学生活送ってもらいたいとは思うが。

「まあ、これからもたぶん頼むわ」
「それは構わないが、しっかり貰うものは貰うからな」
「たけのこの里だろ?安心しろって」

俺と名前、二人を知る人間は多いようで意外に少ない。中学までは一緒の学校に通っていたが、高校が別れてしまったせいだ。
太刀川さんや柚宇さんは本当に知っているって程度だし、米屋だってそこまで親しいわけではない。俺は名前の女友達は中学までしか知らないし、アイツも殆どそんなもんだろう。

だからアイツの学校の様子なんて知る由もない。…というと俺はどこの保護者だよと思わざるを得ないが、仕方のないことだとあきらめるほか無いのである。


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2.21
キャラを出すと夢主が出ない


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