「お疲れさまでしたー」

バイトを終えて、余ってたコロッケも、いつもの癖で貰ってしまった。ここ数週間、前なら公平にあげてたはずのそれは、私か、家族の胃に収まるハメになると言うのについつい貰ってきてしまう。あーあ、最近はもう飽きたって言われるんだよなあ。今日も私のおやつになるのかな、なんて考えながら店の裏口から出ようとすると、ドアの横に何かがいた。なにか、と曖昧にいってはみたが、この角度でも分かる。

「…公平?」
「おう。お疲れ」

どうしたの、と聞く前に、背中を向けて歩き出す彼。聞きたいことは山ほどあれど、なんだか公平の様子もおかしい。ここで無理に聞き出すのは得策ではないだろうと判断し、黙って後ろを歩く。
お互い口を開かない、きまずいままたどり着いたのは、私の家の近くの公園だった。備え付けのベンチに座る彼に習い、私も腰を下ろす。
 
「…とりあえず、貰ってきたから食べる?公平の好きなコロッケ」
「サンキュ」
「うん」  

もぐもぐと食べ進める公平の横顔を見ながら、きゅっと手のひらを強く握る。

「公平にあったら言おうと思ってたことがあるんだけど、言って良い?」
「…なに」
「えーとですね、うん。まずはごめんなさい。あと、おかえり」
「!」
「私意地になってたかなって思うんだよね」

まあデート楽しみにしてたのは嘘じゃないんだけど、公平だって楽しみにしてるって言ってくれてたし、ボーダーが命懸けて戦ってくれてこその私たちの平和でもあるわけだし。でも最近、それをちょっと軽視してたかなあって思うわけなんです。

そういうと、ようやく、公平の視線が私と合った。

「なあ」
「はいよ」
「別れるか」

別れるか。言葉だけならクエスチョンマークもつきそうなものだが、その言い方は疑問形でなく、むしろ反論を許さないとばかりの物だった。真あ私が返す言葉なんて決まりきっているのだが。

「別れないよ」
「あのさあ、俺結構真面目に言ってんだけど」
「あはは、アンタを越える真面目さだわこっちは」
「俺は別れたい」
「公平の言葉が本物だったら考えなくもないけど、嘘でしょ、それ」

昔から器用貧乏で、何でもそつなくこなしていく公平だけど、それでも三年間一緒にいた私の目は誤魔化せない。それだけ公平のことを見てきたつもりだ。

「なーんで分かるかなあ」
「公平嘘つくとき目を合わせてくれないもん。雰囲気とか、いろいろ含めての判断だけど。何があったか聞いて良い?あ、言って良い範囲で構わないよ」
「いい、全部話す」

でもコレ他言無用だからな。俺が言ったのバレたら多分おまえ記憶処理されるから。
そう前置きして、公平はこの数週間のことを全部話してくれた。

近界に遠征に出たこと、そのせいで数週間一切連絡が取れなかったこと、そしてそこで、人型?の近界民を殺したこと。

全部話したあとの公平は、どこかすっきりして見えた。殺す、なんて普通の高校生には無縁の単語だ。それを相談できる人なんて、内容が内容だけに家族でも難しいだろう。
正直、二十歳にもなっていない子供が背負うべきことではない気もするが、それでも無力な私たちはそんな子たちに守られている。

「…まあ、コレで全部だけど、名前はいいのか?」
「何が?」
「近界民とはいえ、俺は人を殺したんだぞ?そんなんと付き合っていられんのかよって」

何てことの無いように見せるのも、これもまた嘘だろう。このことで悩んで悩んで、それで出てきたのが別れるか、って言葉なんだろうと想像はつく。

「別にわたし、公平のこと好きだし。遠征だって、結局は市を護るためのものなんでしょ?だったらまあ、公平だけに背負わすのもどうかなって思うんだよね」
「…」
「あと、奈良坂くんに出水をあまり責めるな、っていわれたし」
「は!?奈良坂!!?」

何でここで奈良坂が出てくんだよ、と驚く公平に、「いやあこの度はいろいろ相談に乗って貰いまして」と笑う。まあまだ納得は出来ていないようだけど、そこはよいではないか、ってことで。

「とりあえずダメになったデート、近日中にやり直しません?」
「そのことについてもおまえちゃんと話せよ。…まあ、今度の土日は休みだよ」
「おっ、じゃあ日曜がいい。どこ行く?」
「おまえが行きたいところで良い。どこでも奢るよ」

今回の遠征で結構貰ったしなと苦笑する公平。まあ命を賭けていくわけだから相応のお金はもらえるのだろうけど。

「奢られるのは性に合わないから、割り勘ね。駅前のケーキバイキングでどうですか?」
「ハイハイ、どこでも付き合いますよ」

その日こそ、新しく買った服を着て、記念日を祝い直すんだ。

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1.31
とりあえず完結。あとはオマケでほんとにおしまい。



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