素直になれよ  


「寮とは逆方向だから少し遠いんですけど、住んでる所の近くに…」
「ああ、そこなら僕も行った事あるよ。いいお店だよね」
「ですよね!品数も多いし、値段は安いから私重宝しているんです!」

練習を終え、部室の中で先輩であり、陽泉のダブルエースの一人である氷室先輩と他愛もない話をする。私と氷室先輩が話す事と言ったら、幼なじみでうちのチームのもう一人のエース、敦関連の事。

その敦は、先生に呼ばれた為にココにはいない。荒木先生もそこまで時間のかからないって言っていたから待っているんだけど…。うーん、もうすぐ20分だ。面倒な事になっていなかったら良いのだが。

「アツシが心配かい?」

ドアの方ばかりを見ていたからか、にこにこしながら氷室先輩が聞いてくる。

「…わかりました?」
「そりゃあね。名字さんはアツシの事好きなんだね」
「そ、そりゃ…好きでもなければ、いくら祖母の家が秋田だからって東京からコッチになんて来ませんって…」
「ふふふ、お似合いだと思うよ」

今の私は多分顔が赤い事だろう。だが私は敦に『好きだ』と言う事は伝えていない。わざわざ敦について陽泉に来たのだからわかる人には簡単に分かってしまうだろう。実際、敦のお姉さんには小さい頃からこの気持ちに気づかれている為、ニヤニヤしながらからかわれたのだった。その時の事を思い出して更に顔が赤くなるのを感じた。

噂をすればなんとやらとでも言うのか、がちゃ、という音とともに敦が部室に入る。

「あ、敦!遅かったね」
「んー、雅子ちんの話長くてさー…あれ、名前ちん顔赤くない?室ちんなんかしたの?」

鈍いようで鈍くない彼は、すぐに異変を察知し私たちの元へ歩いてくる。座っている私と立っている敦。お互い立っていても身長差の為に首が痛くなると言うのに、座っていてはもっとそれが大きく出てしまう、そう思い席を立とうとしたら「座っていていいよー」と頭を押された。敦は手も大きい。まるで大人と子供のようだと思いながら悲しくなって少し口をとがらせながら座りなおした。

「俺のいない間に何話してたの?名前ちん」
「えー、特に何も。敦待ちながら安い駄菓子屋さんの話してただけだよ」

あながち間違ってはいない。げんにちょっと前まではそれについて話していたのだから。

「駄菓子屋の話?じゃあ何で名前ちん顔赤かったの」
「き、気のせいじゃないかな?ですよね、氷室先輩!」
「そうだね。まあ間違ってはいないかな」

苦笑しながら氷室先輩もフォローを入れてくれた。うん、助かりますありがとうございます先輩。

でも、その答えは気にくわなかったのか、ぶっすーと(先程の私以上に)口をとがらせながらロッカーに向かい、お菓子…今日はポテチを出す。うーん、汗でべたべたしていそうなのに、何でそんなにお菓子を優先できるのか。これは永遠の謎かもしれない。

「名前ちん、それちょうだーい」
「ん?これ?」
「うん、それー」
「投げるよーホレ」

ポイッとオレンジジュースのペットボトルを投げると上手くそれをキャッチして一気に飲み干す。小さい頃から普通にやっているから、今さら気になる事じゃないけど、同級女子に言わせてみると「あんたの考えはおかしい!」とのことだそうだ。横で氷室先輩も不思議そうにしている。

「アツシと名字さんは気にしないのかい?」
「えーこれ?」
「うん、一応間接キスになるんじゃないかなと思うんだけど」
「今さらだよ室ちん。ちっちゃい頃から普通にやってきてたんだよ?今さら恥ずかしくも無いし」

どっちかって言うと名前はもう一人の姉ちゃんみたいなもんだしねーという敦にズキン、と胸が痛む。まあそうだろうとは知っていたよ。伊達に幼なじみとして近くにいる訳じゃないからね。分かっていたけどすこし悲しい物はある。

「んー…じゃあさ、もしオレが名字さんと付き合うって言ったらどうする?」
「は?」「ひ、氷室先輩!?」

唐突な質問の意図がつかめずに、勢いよく先輩の方を振り向く。するとすぐに顔を敦の方に向かされた。思い切りやられたせいで首痛い…とは言える空気じゃないな。

「何言ってんの?室ちんでも流石にキレるよ」
「もしも、の話じゃないか。それとも何か理由でもあるのかい?」
「は、室ちんには関係無いし」

イライラしているのがよくわかる。子供みたいに分かりやすいもんな、敦は。

「お姉さん、みたいなモノなんだろ?アツシにとって」
「そう思うときもあるってだけだし」
「じゃあそう思わないときはどう想っているの?」
「…室ちん、知ってるでしょ」
「さぁ?言ってくれなくちゃ分からないな」

すみません話の意図が掴めないんですけど…なんて言ったら2人から怒られてしまいそうだ。何も言うことが出来ずに静かに空気になっていると、敦の大きな手によって耳をふさがれた。小さい頃から私に聞かれたくない話のときは耳塞がれていた。

「       」

なにか言うとすぐに塞いでいた手を離し、手早く着替えて2人分の荷物を持って部室を出る敦…って、おい!ちょっとまて敦そのバッグは私のだよ!!

「ちょっと敦!?ひ、氷室先輩さようなら!お先に失礼しますっ!」
「うん、じゃあね」
「すいませんっ!!」

ダッシュで部室を出ようとすると腕を捕まれた。どうやらドアの横にいたらしい。そのまま私の手を繋いで歩き出す。

いつもより遅いこのペースは私に合わせてくれているからって思っていいのかな?

素直になれよ

(『オレは名前が恋愛対象として好きなの。だからいくら室ちんでもあげないよ』…って。2人とも少し素直になればいいのにね)

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8/6

ゆに様リクエストありがとうございました!
紫原君とのことでしたがいかがでしたでしょうか?若干リクと違う気もしなくはないのですが…お気に召して頂けると幸いです!
これからも銀色をよろしくお願いします!

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