ひねくれ者の  


「名字、ちょっといいか」
「あ、影山君!なに?」

部活の休憩時間、マネージャー業…ドリンク配りをしていると、同級生のセッター、影山君に話しかけられた。幸い、仕事も終わっているためにそのまま話し込む。

「Aクイックの時なんだけど、…つ、月、…」
「それ、本人に言った方が良いと思うんだけど」

あらかた、あの扱いづらいチームメイトの事だろう。まあ、本人以外なら私か山口君に聞くのが良いとは思うから間違った人選とは思わないけど…。ため息をつくも、月島君はー、と教える。まあ、最近は結構本人とコミュニケーションはとろうと努力はしているから、まあ、及第点、って事にしておいてあげるよ。

「…さ、さんきゅ…」
「!!影山くんがお礼を…!」
「…」
「いててて!ちょ、影山くん!痛い痛い痛い死ぬ!」

ボールのように頭を掴まれ、思い切り握られる。力いっぱい。私の頭はボールじゃないし、そんなに力入れられるとガチで割れそう。手を挙げて降参の意を表すと、漸く放してくれた。

「なにもそんな風に思いっ切りやらんでも良いじゃん!」
「お前がそんなこと言ったからだろ…って、あ、休憩終わるぞ」
「え、うそっ、マジ?ごめん、じゃ!」

ドリンクを押し付けるように渡し、潔子先輩の所へ向かう。次の仕事の確認とかをしに。…の、筈だったんだけど。

「………」
「………」

掴まれている腕と、その掴んでいる張本人を見比べる。それに対して、腕を掴んでいる…月島君は真っ直ぐ、射抜くように私を見る。

「………」
「………」
「ねえ、なに?月島君」

沈黙に耐えきれず、根負けしてしまった私が話しかけると、如何にも不機嫌ですというように、ぶっすーとした顔で睨まれた。(とは言っても常日頃ポーカーフェイスな彼なので、普通の人なら分からないくらいの表情の変化なのだが)

「何で王様と話してんの」
「…は?」

そんなに溜めておいて、出てきた言葉はそんなことか?と言いたくなる。別に良いじゃないか、だって私たちはチームメイトの選手とマネージャー。話さない方がおかしいだろう。その旨を彼に伝えると、先程よりも眉間に皺が寄る。

「…ねえ、名字…君ってバカなの?」

私と彼の身長差はおよそ30センチメートル。…いや、もしかしたらもっとあるかもしれない。そんなに大きな相手にこの至近距離で睨まれ、挙げ句「バカじゃないのか」なんて。

…喧嘩売ってんのか。

「誰がバカだって?ってか何で話したくらいで怒られなくちゃいけないわけ?」
「…やっぱり君はバカなんだね。うん、よく分かったよ」
「だからー!」

何で、と言おうとしたその時。無言で手を引かれて体育館の外に連れて行かれた。…といっても、もともと彼が立っていたのは体育館の出入り口すぐ横だから、2、3歩歩けば外にでるんだけど。

「つ、月島君?」
「ねえ、名字は僕の彼女だよね?」
「え、あ、そ、そりゃあ…」
「それは分かってるんだ、バカのくせに、脳細胞は少しはあるらしいね」
「は?ねえ、ってかなんなのあんた!もう!」

文句を言おうと開きかけた口に突如降りかかるキス。…え?

「え、あ、つ、うぉえ!!?」
「なに言ってんの。…あ、日本語喋れなかったの?」
「いやいやいや!」

熱すぎる頬を手で冷やしながら月島君をみる。私はこんなに赤い顔をしている(と思う)のに、彼は普通に白々としている。

「他の男と仲良さそうに話さないでよ」

………。漸く、彼の奇行の原因が分かる。自惚れじゃなければ、月島君は嫉妬してたと言うわけだ。
まあ、自分自身に置き換えて考えてみれば、確かに自分の目の前で彼氏の月島君と他の女の子が仲良さそうに話していたらそりゃ、嫉妬はするだろう

「うん、ごめん」

次からは気を付けるね、というと、ふっと笑う彼。

「当たり前でしょ、次は許さないよ」

そういって、軽く抱き締め、キスをしてくれた。


(…あ、休憩終わる!行くよ蛍!)(…!分かってるよ、名前)(!)

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