水になりたい  


「水になりたい」

帰り道、唐突に呟いたオレの彼女…名前に思わず変な声を出してしまった。
彼女はたまに、他人とずれた視点でものをいう。いわゆる…天然、というやつだろうか。雲を見ておいしそう、なんていうのはまだいいほうに感じる。

鳥の声に対して食べられそうで怖いと言ったり、はたまた烏はかわいいと言ってみたり。…まあ、オレ達がいるのは烏野、だからという理由もあるのだろうが。

そして、今回は水になりたい、という。

「水って水道水とかの?」
「まあ…近いようで遠いような。正確には、考支の水になりたい」

オレの…水?よくわからないと首をかしげると、わかんないかぁ…と苦笑された。いやいや、今のでわかるやつのほうが少ないんだからな。

「人間の身体って、確か…60パーセント?は水でできてるっていうじゃん。つまり、水がないと生きていくことはできないでしょう」

つまりは、名前なしで生きていくことができないようなオレになったらいい、ということか。成程、と納得するも、熱くなる顔。…よかった、今が部活帰りで。真っ暗な中、横に歩いているお互いの顔はよく見えないだろう。

「名前って…たまに恥ずかしいこと言うよな」
「ええ?そうかなぁ」

自覚もないのが名前だ。赤い顔を隠すように、左手で覆いながら歩き進める。ちなみに右手を使わないのは名前の手をつないでいるからである。

「そうだよ。…でも安心して、もう名前はオレの水ってやつになってるから」
「本当?うれしいな」

よくは見えないけど、雰囲気でにへっと笑っているのだろう。かわいく、いとおしい。
先ほどまで顔を覆っていた左手で名前の頭をくしゃっと撫でた。ふわふわの猫っ毛の髪の毛は今はポニーテール。普段の時はおろしているけど、部活になると邪魔だから、という理由らしい。今でもそれなのは、縛った跡が残っているから。おろしていても十分かわいいけど、縛っていてもかわいいんだ。歩く速度に合わせて揺れる髪の毛は、ついつい撫でまわしたくなる。

「…考支」
「えー、なあに?」
「そろそろ離せぇー。ぐちゃぐちゃになっちゃうだろー」
「えーやだよ、オレ名前の頭撫でるの好きだもん」
「考支が好きなのは頭だけー?」

不服そうに言う名前はいじけた子供のよう。「そんなわけないだろ、オレが好きなのは名前のすべてだよ」そういうと、えへへ、と笑ってつながっている手の力を強める。

「私がいないと死んじゃうもんね、考支は」
「そうだなー、うん、確かに死んじゃうかも」
「……!!!」

冗談で言ったのであろうが、真面目に俺が返すことによってうつむいてしまったようだ。撫でていた頭が下を向く。

「でもそれは、オレだけじゃないだろ?名前は違う?」
「…違くない」

そういって、抱きついてくる名前。普段なら外ではそんなことしないのに、と驚きながらも抱きしめかえす。オレより小さいこいつは抱きしめやすい身長の差だと思う。

「    」
「え?なあに?」

顔をうずめながら言うから聞き逃してしまった。でも、もう一度言ってくれたそれには、オレはどうしていいのかわからず、ぎゅーっと抱きしめて、キスを送ることしかできなかった。


「…私は考支なしじゃ生きていけないよ。大好き」

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蜜柑様に捧げます!菅先輩の甘、でした。

いかがでしたか?お気に召していただけたら幸いです!!

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