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□★ちっぽけな手のひらをそっと包んでくれたから





※黄名子ちゃんお母さん説見て書いた妄想です。真相のバレは見ていません。
何でもアリな方のみどうぞ。











淡い日差しが差し込む真っ白い病室のベッドで窓の外を見つめる横顔。一瞬、時が止まったみたいな感覚がした。

「フェイ?」
そう部屋の入口に立つ僕に気付いて向けられた声と共にふわりと病室の白いカーテンが揺れた。僕の顔を見て瞬く瞳がすぐに柔らかく細められる。
「そんなところにいないでこっちに来るやんね。」
その優しい物言いは知ってるけど知らないそれで、少し戸惑う。そんな自分を見て彼女はくすりと笑う。
「フェイ、おいで?」
「…う、ん。」
何処に向けたらいいのかわからない視線を泳がせながら部屋に一歩踏み入れる。
「来てくれて嬉しい。ありがとう。」
ここに座ってと促された椅子にそろりと腰を降ろす。どうしよう、何を言えばいいんだろう。何て呼べばいいんだろう。上手く言葉が出てこない。
「…っ、あ…えと」
「ふふ、いつもみたいに黄名子でいいやんね。ね?」
「…じゃあ…黄名子、」
いつもみたいに、そう言われて彼女の名前を呼んでみたら凄く変な感じがした。だってこの人は、僕の知ってる黄名子よりもずっと大人で…声も仕種も眼差しも、知ってるのに知らない人みたいで…どんな顔をして何を喋ったらいいのかやっぱりわからない、落ち着かない。

カーテンから洩れる淡い光の中で彼女はとても幸せそうにお腹の膨らみを撫でる。そんな彼女の姿に、無性に泣きたくなった。どうしてそんなに優しい顔でそれに触れるの?どうしてそんなに幸せそうなの?だってそれは…僕は。
「…生まなくていいよ、ううん…生まないで、僕を…」
そうすれば君は…いや、貴女は…そう言いかけて止めた。言わなくても彼女は知ってる。このまま自分がどうなるのかを…それでも彼女は首を横に振った。
「生むやんね。」
そう優しさの中に強さを秘めた目で黄名子は笑む。
「どうして?だってそうしたら黄名子は…」
「フェイ、フェイには辛い思いをさせてしまう事になってしまうけど、それでもウチはこの子に…フェイに会いたいやんね。」
一瞬でもいい、抱きしめて生まれてくれて…ウチをお母さんにしてくれてありがとうって、愛してるよって伝えたい。本当はずっと一緒にいたいけど…もっともっと伝えたい事があるけれど…。ウチの、我が儘やんね。ごめんね…寂しい思いをさせて…でもフェイの事はウチが守りたかった…未来が無理なら過去から…だから、あの人に頼んで過去に介入させて貰ったやんね。会いに来てくれてありがとう。嬉しいよ。優しい子になったね。
涙を溜めた瞳を細めて黄名子は笑う。ありがとうって、何度も言う。伸ばされた手が僕の頭を撫でる…触れたその手が暖かくて…、初めて知るその優しい温もりに溢れた涙が止まらない。

「…僕も、会いたかったよ…お母さん」

ありがとう、僕の未来を守ってくれて…僕に道を示してくれて。
生んでくれて、ありがとう。





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黄名子ちゃんがフェイくんのお母さん説見て更にCM見た衝動の妄想。



title by:ひよこ屋
20121213

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