inzm | ナノ

□甘い甘い飴をちょうだい




静まり返った深夜。
コンコン、と扉から二回ノック音が聞こえ、こんな時間に誰だろう…といじっていた携帯電話をぱたんと閉じ、ベッドから起き上がりドアに向かう。
はい?とドアノブを捻って扉を開けるや否や、いきなり白いシーツが部屋の中に飛び込んで来て吹雪はぎょっと後退る。
「トリックオアトリートー!」
そのいつもの様に元気な、しかし時間を考慮した控えめな掛け声と同時にシーツがばさっと広げられる。
「わ!?びっくりした」
中から現れたしてやったり、な顔をした春奈は「えへへー」と悪戯っぽく笑う。
「春奈さん、どうしたの?これ…」
白い布を一抓みして首を傾げる吹雪に「もー、吹雪さん反応悪いです!ハロウィンですよー」と、シーツに包まる春奈はぷくーっと頬を不満げに膨らませる。
それに吹雪は「ああ」と納得した様に頷いた。

「と、言うことで。はい、トリックオアトリート」
春奈は改めてまして、と言った風にコホンと咳ばらいをしてずいっと手の平を差し出す。
「ええと…ごめん、お菓子何も持ってないや」
吹雪は差し出された春奈の手の平を見つめ目を数回瞬かせ、困った様に頬を掻いて苦笑する。
「はい、知ってます」
そんな吹雪に春奈はにっこりと笑顔で差し出した手の平を引っ込める。
「え?じゃあ…」
何しに来たの?とキョトンとする吹雪に春奈はまた悪戯っぽく笑って「ハロウィンは、お菓子くれないと悪戯しちゃうんですよ?」とじりじり吹雪に歩み寄る。
「うーん、春奈さんの悪戯なら大歓迎なんだけど…嫌な予感しかしないなあ」
わきわきと両手を動かす春奈に、吹雪もじりじりと後ずさる。

「あ、お菓子あった」
ふと思い出した様に部屋に備え付けられた机の引き出しを漁り始めた吹雪に春奈は「え、」と立ち止まった。
「はい、飴」
あった、と振り返る吹雪は小包装に包まれた飴を春奈に差し出した。
「この間壁山くんに貰ったんだ。一つ残っててよかった」
「えー、なあんだー」
残念です、と春奈は口を尖らせながら吹雪から受け取った飴の袋をさっそく破り開けて口に放り込む。

「…春奈さん」
まだ残念そうな顔で被っていたシーツをぐるぐると纏めてころころと飴玉を口の中で転がす春奈は吹雪の呼びかけに「何ですか?」と首を傾げる。
「はい、トリックオアトリート」
笑顔で吹雪が差し出した手の平を見つめて「え…」と春奈は目を瞬かせ、徐々にしまった、と言う表情を浮かべる。
「あ…えっと、へ…部屋に戻ればお菓子あるんですけど…わっ」
そう部屋を出ようとドアノブに手をかけた春奈の腕を掴みその身体を自身の方へ引き寄せた吹雪は優しく微笑む。
「今持ってるでしょ?」
腰に回した腕に一層力を込めて、穏やかだが何処か黒い妖艶な笑みを浮かべる吹雪に春奈はぶるりと身震いする。
「も…もう残ってないです、よ?」
「うそ」
頬と震える身体が酷く熱くて…突き放そうと拒む腕にも力は入らず、優しく黒く笑む吹雪に観念した様に春奈はぎゅっと固く瞼を閉じた。



甘い甘い飴をちょうだい


拒めば拒むほど、それはきっと甘い。


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ハロウィン突発文…
相変わらずよくわからない事に……


2011.10.31

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