inzm | ナノ

□ツキアカリに照らされて




「あ………」
部活が終わりぐったり疲れた身体で家に帰る途中、部室のロッカーに英語の教科書を忘れた事に気付き足を止めた。
普段なら無くても困らないが、明日は小テストがある……
しばらく考えて、はぁ…と息を吐き仕方なく取りに戻る事にした。

部室の近くまで来ると小窓から微かに明かりが漏れているのが見えた。
誰かまだいるのか…?

ガラッと部室の扉を開けると、中には机に向かう見慣れた後ろ姿があった。

「…音無?」
名前を呼ぶと扉を開けた音には気付いていなかったのか、音無が椅子に座ったまま顔だけをこちらに向けた。
「あれ?風丸先輩どうしたんですか?」
いつもは頭に掛けている赤いフレームの眼鏡は、今は普通に目に掛かっていた。
「忘れもん、取りに来た。音無こそ、どうしたんだ?こんな時間まで…」
外はすっかり暗くなり、校内に残っている生徒もほとんど居ない。
「ちょっと資料整理してたんです。結構溜まっちゃってて…そしたらこんな時間になっちゃいました」
眼鏡をいつもの定位置まで持ち上げ「へへ…」と苦笑いする音無は作業が終わったのか、椅子から立ち上がり資料をまとめたファイルを棚にしまい始めた。
「大変だな…無理するなよ?」
自分のロッカーに向かいバコッと音を立てて扉を開けて取りに来たモノを捜す。
「大丈夫ですよ、選手の先輩達程大変じゃないですし…それに、マネージャーってこれくらいしか出来ないですし。」
ファイルをしまい終えた音無がにっと笑った。
「そんな事ないさ。いつも感謝してるよ」
目当てのモノを見付け鞄にしまい込んだ。
バタンとロッカーの扉を閉め、音無を見るとふにゃりとはにかんで「えへへ」と笑った。
そんな音無を見て、鼓動が大きくなる。

「……も、もう全部終わったのか?」
まずい…俺今、顔赤いかもしれない…とぱっと音無から顔を背け、ドクドクと跳ねる心臓を落ち着かせる。
「はい!何とか終りました」
元気に答える音無は筆記用具などを鞄に詰め終わった所だった。
「…じゃあ行くか。」
何とか心臓を落ち着かせ、出口に向かい歩き出すが音無はその場でキョトン…とこちらを見ていた。
「…………帰らないのか?」
「え…あ、帰ります…けど…」
目を丸くしてパチパチ瞬きする音無はどうやら俺の言いたい事が分からない様だった。
「送ってく。こんな時間だ、女子一人じゃ危ないからな。」
そう言うと音無は「へ!?」と慌て出し「だ、大丈夫ですよ…そんな…先輩疲れてるのに…」とわたわたしていた。
「ほら、行くぞ」
そんな慌てふためく音無を他所に部室の電気を落とすと「ひゃ!?」と急に暗闇になった事に声を上げ、
「ま、待って下さい〜」
と、バタバタと音無が部室から出て来た。
部室の扉と鍵を閉め、校門へ向かい歩き出した。

ふと隣を見ると月明かりに照らされた音無の硝子玉みたいなキラキラした目と目が合う。
すると音無は少しだけ頬を赤らめ…
「…風丸先輩、ありがとうございます」
と、またふにゃりとはにかんで言うもんだから落ち着かせたはずの心臓がまた跳ね始めた。

今夜の月明かりは眩しいくらいに輝いていた。








…………あとがき…………

実は片想い中な風丸くん…が書きたかった…
イメージとしてはエイリア編のちょっと前かちょっと後……の何でもない日常です

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