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□指切りげんまんで誓います




「立向居くん、どうかした?」
その日の立向居くんは、何だか様子が変だった。
妙にそわそわしていて、ちらちらこっちの様子を伺っているようだったから私からそう話かけたらわかりやすいくらい挙動不審になって「何でもないよ」と言う。
そのくせ何か言いたげに「あ」とか「う」とか口を開けたり閉じたりしていて…言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ、男でしょ!と正直言いたかったけど、あえて私は何も言わずに立向居くんの言葉を待った。
だけど彼はぐっと黙ってしまって何も言ってはくれない。
もうすぐ日本に帰らなきゃいけないのに。
そうしたらもう簡単には会えなくなるのに。
結局このまま何にも言ってくれないのかな…このまま終わりなのかな……
しばらくじっと立向居くんの言葉を待ってみても立向居くんはまだ口をもごもごさせているだけで何も言わずにただ俯いていた。

「…じゃあ、私…行くね」
ダメか…。
諦めてそう言い立向居くんに背を向けると「あ」と声が上がったので期待を抱いて振り向いた。
だけど立向居くんは「…あ、うん……」と、それだけ言ってまた俯いた。
…立向居くんの意気地無し。
何だか悲しくなって涙腺が緩む。それを堪えて再び彼に背を向けて歩き出した。
本当に、今日で最後なのに……私の気持ちだって分かってるはずなのに。
零れ落ちそうになった涙を乱暴に拭って歩幅を広げて歩き続けた…と、突然腕をぐいっと掴まれびっくりして振り返ると、息を切らせた立向居くんがそこにいた。
「…立向居くん?」
「音無さん、俺…!」
大きく深呼吸をした立向居くんは、ポケットから何かを引き出して私の前に突き出し、あんまりまっすぐな視線を送って来るので心臓がドキっとする。

「俺は、音無さんが…ずっと好きだからっ、だから…」
真っ赤な顔でそう言って立向居くんが私に突き出した手を開くと、掌の中にはハートをモチーフにしたシルバーにキラキラ光るピンクの石が付いた指輪。
「…え」
「迎えに行くから…!絶対…だから、俺と…―」
言い終わる前に、奮える立向居くんの手をぎゅっと握ると、きょとんと見開く目と目が合った。
「…うん、待ってる。ずっと待ってる」
私がそう言うと、立向居くんは頬を赤く染めて安堵したようにふにゃりと笑った。

「ね、指輪嵌めて?」
「う、うん……あれ?」
立向居くんが慣れない手つきで私の薬指に通した指輪は、ぎちっと第二関節の所で動かなくなった。
「え…あれ?入んな…うそ!?私指太った…!?」
「え!?ご、ごめん俺サイズ間違えた!?木野さんに音無さんの“ピンキーリング”のサイズ聞いて買ったつもりなんだけど…」
「…ピンキー、リング?」
「え…う、うん」

しばしの沈黙。

「…ふ、あはははは」
つい笑いが込み上げて、耐え切れずお腹を抱えそうな笑い声を上げてしまった。
「お、音無さん?あの…」
そんな私の姿に、ぽかんとする立向居くんを前にしてリングを薬指から小指へと移す。
「ほんとだ。ピッタリ」
「え…?ピンキーリングって…」
首を傾げる彼に私が「小指用のリングよ」と…手を掲げてそう言うと、立向居くんは目をぱちぱちと数回瞬かせて声を上げた。
「…ええ!?な、お…俺間違えて…てっきりピンキーリングって…うわああごめ…っと、取り替えて来るよ!」
前に学校で女子がピンキーリングがどうのって盛り上がってたから…と真っ赤になって慌てる立向居くんが可愛くて、つい顔が綻ぶ。
「ふふ、ううん、私これがいい」
「え?でも…」
「だって指切りげんまんの指だもん。だから今度はちゃんと、薬指に着ける指輪頂戴ね?」
立向居くんがくれたリングを嵌めた小指を突き出すと、「…うん、絶対…約束するよ」そう言って私の小指と立向居くんの小指が絡まった。



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ライオコット島から日本に帰る前日…な話でした。
立向居は自分的に恋愛には意気地無しなイメージがあります……

あとこれ…後日談というか、多分続きを書きます。


2011.9.19

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