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□だって心配性の貴方は何処へでも駆け付けてくれるでしょう?




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玄関から聞こえた「ただいまー」と言う声に、私は今の状況が状況だけに出迎えに行けずにその場から大きな声で「おかえりなさーい」と応えた。

「春奈さーん?」
私の声を辿ってガチャリと居間のドアを開けて入って来た彼に「ごめんなさい出迎えられなくて…」と苦笑して言うと、彼…吹雪さんは腕に持っていた上着をばさりと床に落として目を見開いて青ざめた。

「な…、何やってるの春奈さんっ!?」
「…何って、電球取り替えてます」
椅子の上に爪先立ち、電球片手にそう言うと吹雪さんは口をぱくぱくさせていた。
「そ、そんなの僕がやるから…っ、ちょ…とりあえず降り…ゆっくり落ち着いて今すぐ降りて!」
そう手を差し延べる吹雪さんはもともと色白な顔を見たことがないくらい青白くさせている。
「大丈夫ですよー。もう終わりましたから」
そう言って差し延べられた吹雪さんの腕をかわしてぴょんと椅子から飛び降り華麗に着地して見せると、口をあんぐりとさせた彼はわなわなと奮え、そのまま心臓が止まるんじゃないかとこっちが心配になるくらい青白いを通り越し、真っ青な顔でその場にへたり込んだ。

「しん…心臓に悪いよ、春奈さん…」
「もー、大丈夫ですって。私だってちゃんと気を付けてますから」
まだ何の膨らみもないお腹に手を当ててそう笑って見せると吹雪さんは、「それでもやっぱり電球は僕が替えるから」と、深い溜め息をついた。
「吹雪さんちょっと心配しすぎですよ」
苦笑してそう言うと、吹雪さんはじと…っと目を細める。
「…本当なら家から一歩も出ずに、そこのソファーに座ってじっと動かないで欲しいくらいなんだよ?」
「…それじゃあ仕事に行けないです」
「早く産休入ってよ」
「無理です。まだ全然仕事出来ますもん。て、いうか例え産休入ったとしてもさっきのだと家事も出来ないですよ」
掃除や洗濯、買い物…やらなきゃいけない事たくさんあるんですよ?と私が頬を膨らませると、吹雪さんも同じ様に膨れた。
「そんなの僕がやるからいいよ。そもそも包丁も持って欲しくないんだから」
「ご飯どうするんですか?吹雪さん料理なんて出来ないでしょう?」
「なんとかなるよ」

むう、っと二人で膨れながらじっと目を合わせていると何だか可笑しくなって来て思わず吹き出してしまった。
それを見た吹雪さんは何がおかしいの?とさらにむくれたのでまた笑いが込み上げる。
「だって…吹雪さん本当に心配しすぎなんですもん」
「そりゃあ心配だよ。当たり前じゃないか」
吹雪さんは、そうため息をついて私の肩に頭をもたれ掛からせる。
「…大丈夫ですよ。だって…」
肩にもたれ掛からせたままの頭を少し動かして私の顔を覗き込む吹雪さんに微笑んだ。
「私が転びそうになったら吹雪さんが支えてくれるでしょう?」
何処にいても、あの時みたいに。

少し心配性過ぎるけど…でも、そんな貴方がいるから、
だから私は何も心配してないんです。



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多分吹雪くんは心配性…だといいな←
きっと吹雪くんは春奈ちゃんが危ない時は何処からともなく颯爽と現れて支えてくれるはずだ。

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