inzm | ナノ

□Love or Like




「木暮くーん!待ちなさあーい!!」
少し離れた所から聞こえたその声に、ああ…またか…とその光景を眺める。
すると丁度音無さんが木暮の後ろ襟を掴んだ所だった。
また今日は何をしたんだろう?
まあだいたい想像はつくけど…。

正直、俺は木暮が羨ましい。
何がって、音無さんに構って貰えてる事が。
だからって悪戯して追いかけて貰いたいとかじゃないけど……

多分、木暮は音無さんが好きなんじゃないかと思う。
悪戯するのも、すれば音無さんが追いかけくれるからなんじゃないかな…とさえ最近思うんだ。
そして多分、音無さんも木暮を気にかけてるんだと思う……。
特別な意味で…。
「いいなぁ…」
「ん?どうかしたのか立向居」
思わず心の声が口に出てしまい、隣で汗を拭っていた綱海さんが不思議そうな顔をした。
「あ、いえ…何でもないです」
慌てて笑ってごまかしたが、綱海さんはさっきまで俺が凝視していた方に視線を移して「ああ、そういう事か」と納得したようにニヤリと笑った。
「怒られてる木暮が羨ましいってか」
「う…!!!!」
この人は普段はそういうの鈍そうなのにたまに鋭い…

「いや、別に怒られてるのが羨ましいとかじゃなくて…」
「わーかってるって。よし、俺に任せろ!」
ぽん、と俺の肩に手を置いた綱海さんはにっと笑う。
「え、任せろって何を…」
そんな俺の言葉を無視して綱海さんはすぅ、っと大きく息を吸う。
「おーい、音無ー!!!!」
「…!?」
グランドに響き渡る綱海さんの声に、木暮を叱っていた音無さんがきょとんとこっちを見た。
「ちょっといいかー?」
そう手を上げる綱海さんに音無さんも「はーい」と手を上げ小走りで近付いて来た。
「つ、綱海さん何を…!?」
「いーからいーから。俺に任せとけって」
一体何をする…いや、もしくは何を言うつもりだこの人は、と俺が変な汗を出してると、音無さんはあっという間にやって来た。
「何ですか?」
「や、立向居がさ、ちょっと頭痛するってんで冷やしてやってくんねーか?」
「…!?つな…」
突然の綱海さんの発言にぎょっとした。
「えっ!?大丈夫!?」
「え、あ…いや」
それを聞いた音無さんは眉を下げて心配そうな顔になる。あ、そんな顔もやっぱ可愛いな…なんて不謹慎にも思ってしまった。
「じゃあ俺は練習もどっから後よろしくな!」
「はい!任せて下さい」
「ちょ…綱海さ…!」
じゃーな!と足速に去って行く綱海さんに、どうしたらいいのか挙動不審になっていたら「立向居くん大丈夫?ベンチまで歩ける?」と音無さんがそう心配そうに顔を覗き込むもんだから一気に頭に血が昇る。
それを見た音無さんは熱でもあるのかと勘違いしたらしく早く冷やさないと!と俺をベンチに引っ張った。

ベンチに着くと、本当は頭痛なんてしてなかった頭に氷嚢を当てられた。
「大丈夫?」
隣に座る心配そうな彼女の声に仮病を使っている事に胸が痛んだが、今二人だけのこの状況にまんざらでもない自分がいた。
「う、うん…だいぶ良くなってきたよ」
そうもっともらしい返事をすると、よかったと音無さんは笑い、練習風景に視線を移した。
音無さんの目線の先に誰がいるのか横からじゃ分からなかったけど、もしかしたら…そう思うと苦しくなった。

「…音無さんは、木暮の事…好きなの?」
つい聞いてしまった。
「…え?」
いきなり振られた問いに、当然の事ながら音無さんはぽかんとした。
「あ、いや…今のはその…」
言い訳をしようと背もたれにもたれ掛かっていた身体を起き上がらせると、頭に当てていた氷嚢が地面に落下した。
「うーん…そうだなあ…何か、弟みたいでほっとけないって言うのはあるかも」
落下した氷嚢を拾い上げながら音無さんは思考を巡らせる様にゆっくりそう答えた。
「…弟?」
「うん。そんな感じ」
はい、と氷嚢を差し出しながら彼女は笑った。
「…ラブとライクだったら?」
差し出された氷嚢を受け取りながらそう聞くと、音無さんは、えー?と笑う。
「ライクかなあ?」
彼女のその言葉に、瞬間的に安堵してしまう自分はなんて単純なんだろう。

「…じゃあ、俺は…?」
口に出してから俺は何を言ってるんだろうと顔が一気に熱くなった。
ああ、こんな事聞いたら俺が音無さんに気があるのバレバレじゃないか。
何か言い訳をしなければ、と口を開きかけた時…音無さんにひょこっと顔を覗き込まれて心臓が跳ねて息が詰まった。
「…知りたい?」
そう悪戯っぽく笑う彼女に俺は「…え?」と間抜けな声しか出ずにぽかんとすると…

「立向居くんが私の事、ライクじゃなくてラブだったら教えてあげる」
そう彼女ははにかんだ。

瞬間、頭に当て直した氷嚢の氷が一気に溶けるんじゃないかと思うくらいに全身が熱くなった。




---------------------
またも内容、文章構成が行方不明ですねすみません…
姉弟みたいな木春が好きです。木+春な二人が好きです。
そんでそんな木暮に嫉妬する立向居の立春が好きです。つまり立春+木が好きですもぐもぐ。



2011.9.16

12ページ/35ページ