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□部室恋愛トーク




「神童、霧野…お前ら彼女とか作んないの?」

いきなりそんな事を言い出したのは南沢さんだった。
その問いに、俺も霧野もポカンとして二人同時に「……はい?」と間抜けな声を出した。

「かーのーじょー。お前らモテんだろ?サッカー一生懸命なのはいいけど、少しは青春を謳歌すれば?」
ニヤニヤしながら言う南沢さんに三国先輩は呆れた様に息をつき「一応今、ミーティング中なんだがな…」と呟いた。

隣を見れば、霧野は飄々とした様子で「あー俺居ないです。ってか付き合うとかめんどくないですか?」等と言っている。
俺はと言うと、正直この手の話題には耐性がなく、じわじわと身体が熱くなり額に汗が滲んだ。

「南沢さんは居るんですか?彼女」
そんな俺を余所に霧野は南沢さんに質問を投げ返していた。
三国先輩はやっぱり呆れ返っている様子だった。
「俺?今は居ない」
今は?
え、今はって…
「昨日別れたんだと」
そう言ったのは部誌に目を通していた三国先輩だった。
「えー!?何で別れたんですかー?」
霧野はもうノリノリだ。
「だってめんどいんだもんよ。メール返してだとか電話出てだとかさぁ」
「付き合うならそれくらいしてやれよ…」
「あぁ、俺もそういうのがめんどいんスよね。三国先輩はどうなんですか?」
「一昨日告られてたよな?アレどうしたんだ?」
「俺にそんな余裕はないし、南沢みたいな扱いするのは相手が可哀相だろう」

押し黙る俺の目の前で生々しい会話が飛び交う。
さっきまで呆れ果てていた三国先輩までがいつの間にかその会話にがっつり参加している。
付き合うとか別れたとか告られるとか…
聞いてるだけで何故だかふわふわした様な気恥ずかしさが全身を覆う。
正直、告白は今まで何度かされた事がある。
しかし、俺はそれを受ける事は出来ない。

好きな人が居るから。
だけど自分から告白なんて出来ないし、付き合うなんて考えただけで頭が沸騰しそうだ…
それに……その人はきっと俺の事なんてそんな対象に見てくれていない……
何故なら……

「神童、お前は?」
「…へ!?」
突然話の矛先が俺に向けられ素っ頓狂な声が出た。
「い、いや俺は…」
「あ、こいつ今片想い中ですよ。それも初恋からなんで相当長い…な?」
「な!?霧野!お前…!!」
「マジで!?誰々?」
身を乗り出す南沢さんと、落ち着きを装っているが三国先輩も興味津々と言った目をしていた。
「……小さい頃、よく遊んでた公園の近所に住んでたお姉さん…です」
答えるまで解放してくれそうにない雰囲気に、ぐっと息を飲み込んで答える。

「何、年上!?」
うっわやーらしいー、とまくし立てる南沢さんにニヤニヤする霧野……顔が燃える様に熱い…

「今もって事はまだその人とはよく会うのか?」
聞いて来たのは三国先輩だ。
そしてそれには何故か霧野が答えた。
「ほぼ毎日会ってますよ。まあ、俺等も一緒ですけど」
「霧野!お前いい加減に…」
「俺達も知ってる人って事か?」
ついには部誌を閉じた三国先輩…
「誰だよ?ここまで来たんだ、もう吐いちゃえよ」
ニヤリとする南沢さん…

「…お……」

「お?」
「音無…せんせい…」
ぼそりと…自分でも驚く程震えた声が出た。

「…マジで!?え、何?初恋から音無先生!?」
一瞬の沈黙の後、いつも冷静な南沢さんが珍しく声を荒げた。
「あ、そうだ写真ありますよ!見ます?」
そう言う霧野の手には俺の鞄。
その中を無造作に漁り、手帳を取り出した。
「ちょ!?何でお前それ知ってるんだ!?」
「だってお前、隙さえあればこれ開いて見てるだろ」
手帳に挟まった一枚の写真を取り出すと、それを机の真ん中に置いた。
そこには幼少の頃の俺と、俺を抱き抱え微笑む緩くウェーブのかかったショートボブに赤いフレームの眼鏡を頭に乗せた、丁度今の俺達と同じ年頃の少女が写っている。
「うわ若ー。ホントに音無先生じゃん。へぇ、可愛いな…」
「…ああ、可愛いな」
写真を食い入る様に見ていた南沢さんと三国先輩が呟く。

「なあ、こん時神童は先生の事何て呼んでたんだっけ?」
霧野は尚も俺を茶化しにかかる。
「霧野……お前後で覚えとけよ……」
ジロリと霧野を睨むも、ニィっと黒い笑みで返された。
そして予想通り、南沢さんがその話題に食いついた。
「え、何?何て呼んでたって?」

沈黙………
しかし三人の視線に観念して、俺は答える。
「……っ…は、はるなちゃん…です」
三人が笑いを堪えてるのが目に見えて分かる。
羞恥のあまり顔から汗が吹き出て、背中までじっとりとしていた。

すると、
「…なあ、これ雷門の制服だよな?」
写真を見ていた三国先輩がそう言い指差したのは小さな俺を抱き抱えた少女の音無先生…の隣に写る、少し前の雷門の制服を着たドレッドヘアーにゴーグルを付けた少年。

「…彼氏か?」
「え…いやそれは俺も…」
南沢さんのその問いに、俺は首を傾げる。
これだけ堂々と写っているこの少年は俺自身もずっと気になっていた、音無先生といつも一緒で…相手をして貰った記憶も確かにあるのだが…俺が物心付いた時には先生は高校生で通学路や帰宅時間が変わったのか、俺も段々あの公園には行かなくなってしまった為に会わなくなっていたので真相は未だ分かっていないのだ。

「私の兄よ」
すると突然背後から静まった空間にその声が響いた。
「「「「!?」」」」
恐らく、その場にいた全員が内心飛び上がったに違いない。
後ろを振り向けば、何時からいたのか…噂をしていた音無先生が机を覗き込む様に立っていた。
「懐かしい写真ねー。そういえば昔よく公園で遊んだわね」
クスクス笑いながら先生が言う…
いつから居たのか、まさか今の話を聞かれたのか……と、俺は気が気じゃなく、心臓が早鐘の様に脈を打つ。
「って言うか、そろそろ下校時刻よ?いつまでも遊んでないで早く帰りなさい」
腰に手を当て真面目な顔で言う先生に三国先輩は「す、すみません…すぐ片付けて帰ります」と頭を下げた。
すると先生はジャケットのポケットから一つの鍵を取り出した。
「でね、私これから会議なのよ。だから戸締まりお願いしていいかしら?鍵は明日渡してくれればいいから」
そう言って音無先生は俺に部室塔の鍵を渡す。
「あ、はい。分かりました」
なるべく平静を装って鍵を受け取る俺の指先に、音無先生の手が触れて無条件に心臓が大きく跳ねる。
「わ…!?すみませ…」
俺の意思とは裏腹に、かあああと一瞬で顔が赤くなる…そんな俺を見て、音無先生はクス…と笑った。

「じゃあお願いね?拓人くん」

「はい……っえ!!!!!?」
そう言い先生は幼い少女の様に少し悪戯っぽく笑って部室を出て行った。

「…拓人くん、だって」
霧野は懲りずに茶化す。
「羨ましいねぇ、拓人くん」
ぼそりと南沢さんが言う……それはどういう意味ですか…
「先生…わかってやってないか…あれ…」
三国先輩は苦笑していた。

俺はと言うと…羞恥とかいろんな感情が入り交じりとにかく動悸が酷くて、何だかもう立っているのがやっとの状態で…さっき鍵を受け取る際、先生に触れた指先が焼ける様に熱かった。



……あとがきと補足。……

うん…
消化不良感が……
GOキャラの口調とかまだよくわからん…
リベンジしたい……てかこのシリーズで書きたい…
幼なじみシリーズ?
実は神童が小さい時よく遊びに行ってた公園の近所に春奈が住んでて、よく学校帰りの春奈と遊んでた…って言うのだと…私がかなり萌えるなぁ…と…。
当時、鬼道さんもよく一緒にいたけど、春奈とはどういう関係なのか分からなくてもやもやしてたらいい…かなぁ、と…←
霧野と神童は幼なじみ?なのかは分からないんですが、幼なじみ設定。
霧野も幼少期に何回か春奈とは面識ありで、その頃神童が春奈を「はるなちゃん」呼びだったのを知ってる設定。

いくつかこの設定で書きたいなあ…

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