inzm | ナノ

□今日知った事




気になるやつがいる。
でも会話した事はほとんど無い。

練習終了後、周りが各々と宿舎に帰る中でまだベンチに座って特訓メニューや何やらのプリントを整理していた少女に「鬼道クンの妹ってさぁ…」と何気なく話かけたらこちらを見上げて何だか慌てた顔をしてそいつ、音無春奈はばっと立ち上がり明らかに逃げた。
そんな春奈の行動が傷付いたと同時に気に食わなくて「チッ」と舌打ちをして不動明王は彼女を追いかけた。

「なっ…なんで付いて来るんですか!?」
ジリジリと詰まる距離に春奈は一層歩くスピードを速める。
気付けば宿舎とは逆の方向に来てしまっていた。
「そっちこそ!それはあからさま過ぎるんじゃねーの!?」
不動の方も歩調を速める。
明らかに不機嫌な不動に恐怖心を抱かずにはいられなかったが、「ちょっとヒデェな」と言われて流石に春奈も心が痛み足を止める。
すると不動も一定の距離を開けて立ち止まる。
「す…すみません……」
春奈は上がった息を整えながら不動の方をゆっくり振り返り辺りをキョロキョロ見渡して周囲に人気が無いかを確認する。
そんな春奈の挙動不審な行動を不動は不審に思い、「あ?何だよ?」と問い質す。
すると、不動自身はそんなつもりはなかったのだが強い言い方になっていたのか春奈は少しびくりと肩を奮わせた。
それを見て不動はしまった…と顔を歪めたが、春奈は不動の表情に気付いた風もなくまた周囲を見渡し…
「……お兄ちゃんに……その…」
と、もごもご言いながらそろそろと足をこちらに向け踏み出した、が…ふと視線を感じた気がして足を止める。
「鬼道?鬼道が何だよ?」
ずいっと一歩、春奈に近付こうとした瞬間。
「何をしてるんだ…不動?」
静かに、不動の背後からドスの効いたよく知っている声が聞こえ春奈はぎくりとした。
それは不動も同じ…いや、春奈以上に彼はぎくりとしたのかもしれない。
珍しく目が泳いでいる。
不動の背後からはいつもと何ら変わらない表情を装いながらも威嚇の、色で表すなら黒い…それはもうブラックホール並に黒いオーラを纏った鬼道が現れた。
その姿にさすがの春奈も顔が青ざめている。
「お…お兄ちゃん…あの…えーと…な、何でもないのよ?不動さんはちょっと…そう!明日の練習試合のメンバーについて聞いて来ただけなの!」
何か言わなければ、と春奈は手に持っている明日行われる予定の練習試合の資料を見て咄嗟に言い訳を作るが、ちらっと不動の方を見れば彼は何とも言えない表情で固まっていた。
こんな不動明王を春奈は未だかつて見た事がなく、記念に写真にでも納めておきたいと内心では思ったが、今はそれどころではない。

同意がない事に焦りを感じた春奈に「ねえ!?不動さん!」と言われ、ようやく不動はハッとして「そ…そうそう。何だよ鬼道クン、別にちょっかい出してた訳じゃないんだからそんな睨むなよ?」と、ようやく普段の不動らしく、はん。と鼻を鳴らし言う。
「…そうか。それなら俺が春奈に聞いて後でお前に伝えよう。」
鬼道はゴーグルの奥の鋭い眼光で不動を見据えそう言うと「春奈、行くぞ。」と踵を翻して宿舎へ向かった。
黒いレンズで見えはしなかったが、恐らく睨んでいたに違いない……
「ご、ごめんなさい…お兄ちゃん心配性で…不動さんには近付くなって言われてたんです…だから…」
眉を下げ、苦笑い混じりでそう言う春奈は手に持ったボードに挟んであるプリントに何やら書き込んでいる。
近付くな…か、まあ…いくら誤解が解けたとは言え、あいつなら言い兼ねない…と不動は苦々しく思う。

何かをメモしていた春奈はそのプリントを適当に小さく折って鬼道に見えない様に不動にこっそり差し出した。
その意図が分からずポカンとしていると
「えと…私に何か用、あったんですよね?」
だから…と、ふにゃりと笑い少し先で春奈!と急かす兄の元に「じゃぁ…」と頭を軽く下げて駆け寄って行った。
その姿を見送ってから手渡された紙を開く。
そこにはケータイの番号とアドレスとその下に[音無春奈]と、女の子特有の丸い文字で書かれていた。

「!!!!」

気になるやつがいる。
でも話した事はほとんどない。
だけど今日、知った事が二つある。
一つは、その気になるやつには鉄壁の守りをするおっかない兄がいる。
そしてもう一つは、その鉄壁の守りをかい潜る突破口となるかもしれない…そいつの携帯番号とアドレス………

まだあった。
やっぱり俺はそいつ…音無春奈が好きだと言う事だ。






…………あとがき…………

まあ…チームK戦直後とか……その辺りですかね

文章纏まりなく読みづらくてすみません…最後もぐだぐだですね……もっと精進したいです…OTZ

35ページ/35ページ