inzm | ナノ

□わかりきった事





『不動か!?お前ちょお今すぐこっち来いや』
その突然の呼び出しに、俺の口から出たのは「……は?」と言うなんともマヌケな声だった。


テーブルの上で鳴り響く着信音に、携帯を開いて相手が音無である事を確認して通話ボタンを押すと…聞こえてきたのはイライラを全面に出した別の声。
『せやから春奈が酔い潰れて寝てもーてん、いいからはよ迎えこんかい』
電話の向こうでドスを効かせてくるのは聞き覚えのある関西弁。
『駅前の居酒屋や!ええな!』
そう電話は一方的に切れ、耳にはツーツーと言う音だけが響く。

今のは…
「…浦部?」
ああ、確か今日は女子会だとか言ってたな…どうりで帰りが遅い…ていうか、何で浦部はあんなに機嫌が悪そうだったんだ?
そんな事を考えながら言われた通り音無を迎えに行く為に上着を持って立ち上がり玄関に向かった。



指示された居酒屋に着いて店員に酔っ払いの迎えに来た事を説明し、席まで案内してもらうと…これはなんとも……
「どんだけ呑んだんだコイツは…」
見覚えのある女連中がきゃあきゃあ楽しげに騒ぐ中、一人隅で顔を赤く染めて壁にもたれかかり今にも涎れを垂らしそうなほど気持ちよさ気に眠る音無。
「おい、音無。帰るぞ」
呼びかけながら頬をぺちぺち叩いてみるが、起きる様子はない。
するといきなり横から肩を掴まれた。
びっくりしてその手の先を見ると、そこには俺を呼び出した浦部リカがいた。
「お前…どうするつもりやねん…」
そうギロリと俺を睨みつけながら言う浦部は俺の肩を掴む手にギリギリと力を込める。
「…はあ?」
痛みはとりあえず無視して訳が分からず聞き返す。
「せやから春奈とこれからどないするつもりか聞いてんねん!」
「な!?どうするって…何言って…」
まっすぐ家に帰るに決まってんだろ!?と言おうとしたところで今度はいきなり胸倉を掴まれた。
「春奈との将来どないするつもりや!?しっかりしいやこのハゲ!!!!」
ああ…なんだそういう…って、ハゲじゃねえよ!……とはとても言えなかった。
別に胸倉つかまれて恐いとかじゃなく。
断じてビビったとかじゃなく。
なんとなくだ、なんとなく。

「ちょっとリカ、落ち着けって…」
がくがくと俺を揺さぶる浦部を、そう宥めに入って来たのは財前だ。
「落ちついとるわあ!おいこら不動!答えんかい!!お前に春奈幸せに出来るんかハゲェ!!!!」
いやだからハゲじゃねえよ!?
てかとりあえず揺さぶるのやめないか…そろそろ気分悪くなってきた…と、そこで財前が俺から浦部を剥ぎ取った。

「悪い不動、ちょっと呑みすぎたみたいで…これ、春奈の荷物な」
「あ…ああ…」
そう渡された荷物を片手に財前に手伝って貰って起きそうもない音無をおぶる。
「じゃあどうも」
とだけ言ってその場を後にしようとすると「あのさ…」と呼び止められた。
「あ…ごめん、でもリカの言ってる事もわかるんだ、あたし」
一度跳ねて音無を背負い直す俺にそう苦笑する財前。
「…春奈との将来、考えてるんだったらちゃんと幸せにしてあげてよ、不動」
そう言って財前は注文を取りに来た店員にまで絡み始めた浦部の元へ踵を返した。

将来…将来ねえ…
そりゃ俺だってこのままでいいとは思っていないが…
と、考えているとふと気付いた背中に当たる柔らかい感触に足を止めた。
瞬間、俺の全神経が背中に集中する。
振り払おうとすればするほど生々しく感じるそれに、何だかムラッとする。
いやいや…初な中学生じゃあるまいし、と自分に苦笑していると耳元に聞こえるのは小さな寝息。
規則正しく耳にかかる息にぞわぞわと身体が疼くのを感じる。

「俺…相当だな…」
苦笑してため息を吐き出し再び歩き出す。
背中に全神経を集中させたまま。

玄関を開け、音無の足からパンプスを脱がせ寝室に向かう。
背負った音無をなるべくゆっくりとベッドに降ろそうとしたら見事に体勢を崩した。
「どわっ…ぶね…」
まあ、ベッドの上なので音無は普通にそこに倒れ込む形になっただけだが、問題は俺の体勢。
すうすうと静かな寝息をたてる音無に覆いかぶさるような体勢。
長い睫毛に柔らかそうな白い肌…細い首筋…
まだ少女のようなあどけなさを残しつつも大人の女になった音無…その無防備な姿な喉が鳴る。
腰から上へ…シャツ越しに手の平を這わせていくと、音無はくすぐったそうに身をよじり、うっすらと目を開く。
「ん…ふどう…さん?」
俺の姿を捉えると、嬉しそうに笑った音無の腕が首に伸びて絡んで…引き寄せられるままに唇を重ねる。
そんな事されたら俺は欲望のままに動くしかないわけで、徐々に深いキスをする。
唇が離れると音無はふにゃりと笑って「ふどうさん、だいすき…」とだけ言ってまた静かに寝息をたて始めた。

「……あー、くそ」
頭をがしがし掻いて起き上がり、音無に布団を被せる。
「俺の方が好きだっつーの…ばーか」
そう言って音無の頭を撫でていると、起きてんのか寝てんのか…えへへ、と幸せそうに笑った。
その顔を見て苦しいくらい幸せだと感じている自分はもう重症なのだろう。

そこで浦部と財前の言葉を思い出す。
「さて、どうするかねぇ…」
とりあえず、俺はどうしたってコイツとの未来しか考えられないわけだが…その為にはまず…
「未来のお義兄さまにでも相談してみますか」
まあ、一筋縄じゃいかないだろうが…な。




……あとがき…………

茶会で出た皆さまの素敵妄想をお借りして書いてみたり……
しかし取ってたメモが酷すぎた上に茶会終了後の夜中のテンションで書いたのでとてもカオスに……
あるぇ……あんなに素敵な題材だったのに私が書くと残念すぎるな…
どうしてこうなった
でも楽しい
おんぶおんぶ←

これ前に書いた結婚文に繋げられるかな?
とか言ってみる…

てかリベンジしたいわ←

19ページ/35ページ