かわらにて

※性癖にとても忠実な捏造
※例のごとくメリバ

ハッピータミカネ!!
ハッピーしそこさんバースデー!!








何時間が経っただろう。
いや、もしかしたら何日かもしれない。はたまた、何年かもしれない。どれほどの時間が経ったのかなど、最初の1時間を超えてからは数えるのをやめてしまった。

どうして自分は時間を気にしているのか。
時間が経てば何かが起こるのか、それを待ち望んでいるのか、それすらも忘れてしまっていた。確か、何かを待っていたような気がするのだけれど。

うーんと一人唸って身をよじった反動で何かがカラカラ、と鳴った。音のする方で石が転がっていた。そうだった。確か時間が経ったその先に起こるはずだったものが何だったかを思い出すまで、暇つぶしに石を積んでいたんだった。


転がった石は様々な形をしていた。
綺麗な丸や平べったい円盤型、尖ったものや元々一つだったものが割れてふたつになったもの。手の届くところから無作為に取られたそれらは高く積み上がっていて、その高さは潰した時間の長さを表していた。

ある程度の高さまで積み上がった時、ジャリジャリと足音を立てながら歩いてくる一人の男の姿があった。遠くから近づいてくるその姿は暇を持て余していた身としては大変ありがたかった。とにかく誰かと話したかった。会って、話をして、この長い時間を凌ぎたかった。


「よかった、誰もいないのかと思った」
「何をしているの」
「そこらにあった石を積んでたんだ」
「なんで」
「暇つぶしだよ」
「違うでしょ?」
「そうだよ、時間を潰していたんだ」
「いつまで」
「分からない。でもいつかその時が来るんだ。僕はそれを待ち続けているんだ」
「いつ来るのかも分からないのに待ち続けるんだ」


なんだか急に現れたと思ったら嫌味な奴だ。
何を待ってるかだなんて、僕の方が知りたいよ。
そんな気持ちをぐっとこらえ、「そうだよ、待ち続けるんだ」と答えたかった。


ガシャーン


そんな無表情な効果音が似合いそうな勢いで、石の塔が崩れた。上げられた足が静かに降りる。転がる石の反対にいる男は悪びれた様子はなく、むしろこちらが悪いのではと思うような目で僕と石を見下ろした。興を削いだ目だった。


「来ないよ、そんな日」
「な、なにするの」
「来ないんだよ、君が待っている時も、事も、人も、二度と」


男が来た方向からガシャーン、と音が聞こえた。
見ると、自分と同じように積み重ねていた石の塔を崩された人がいた。驚いたことに、人がいたことに今気が付いた。
辺りを見回すと、ある程度の距離感で横並びに自分と同じように石を積み重ねている人が沢山いた。人の存在にまったく気がつかないほど夢中で石を積んでいたのか。
そんなわけはない。今まで何時間も石を積み続けてはいたけれど、時折飽きては周りを見渡していたのだ。人がいたら黙って一人で時間なんて潰さない。


「あーあ、積み直しだね」
「君が蹴飛ばしたんじゃないか」
「そうだよ。君は何度でも石を積み続ける。そして僕はそれを壊す」
「なんでそんな意地悪をするんだよ」
「君が分かっていないからさ」
「なにを」
「石を積む理由を」
「だから、ただの暇つぶしだってば」
「それじゃあ僕は何度でも君の塔を壊し続けるね」


「あ、そうだ。僕も暇じゃないから、君が気付けるように助言をあげよう。
君の前に流れる川を覗いてごらん。ただ覗くだけじゃだめだよ。自分が何で石を積んでいるのか、ようく考えながら覗くんだ。それでも分からないようなら、僕は報われない水面の向こう側に同情するけどね。
まあ、せいぜい頑張って」


一方的に話を終えた男は、そのまま何処かへと消えて行ってしまった。また誰かの塔を壊しにいくのだろうか。あんな理不尽な奴、どうせまた塔が出来上がった頃に来て、蹴飛ばしては「理由を考えろ」だの「川を覗け」だなんて説教して去っていくんだろう。せっかく積み上げた石もなんども蹴られているせいで割れてしまったものもある。元は一つの綺麗な石だったのに。何遍も同じことを繰り返して飽きないのだろうかと呆れて、ふと我に帰る。



自分は、あの男に何度も会っていたのではないか?



塔を崩されたのも、石を積む理由を聞かれたのも、助言を残されたのも、今に始まった事ではないとしたら?

何かが丸々と抜けてしまっている。
でもそれが何かは思い出せない。男の言葉を思い出す。「水面の向こう側に同情する」

顔を上げると、驚いたことに、目の前には川が流れていた。
今まで何時間も石を積み続けてはいたけれど、時折飽きては周りを見渡していたのだ。川が流れていたら気付かないはずがない。

音もなく揺れる水面は、近づかなければ揺らいでいることにさえ気がつかないほど穏やかだった。酷く穏やかで、酷く澄み切っていた。そして、澄みきっているのに底が見えなかった。
奥底が暗かったり澱んでいたりするわけではない。奥に広がるのは延々と続く「水」ただそれだけ。

なんだ、ただの川じゃないか。
脅かしだったのか面白半分だったのか、男の言葉を間に受けて川を覗き込んでしまったことに少し苛立ち、側にあった石を投げつけた。

そこまで弱い力でもないのに、石は音も立てず川の中に吸い込まれていった。あれ、そんなに音がしないものなのかと不思議に思い、もう一度石を投げつける。今度はなるべく高く、垂直に、叩きつけるように。
パシャ、と可愛らしい水しぶきがあがった。
不思議な川だ。こんなに強く叩きつけたのに大きな音もしない。なんだか面食らったようで、これ以上石を投げる気にはなれなかった。
元の場所に戻ってまた石を積み上げよう、そう思った時だった。


どこかで炎の上がる音がした。
ボウボウと勢いを上げて燃え盛る音はすぐ近くで聞こえる。しかし、辺りを見回せど近くで火事は起こっていない。対岸の火事かと向こう側も見たけれど、それらしき炎は上がっていない。
こんなにも大きな音を立てているのにどこにも火柱がないと首をかしげた目の前で、川があぶくを立てた。
ボコボコとマグマが沸騰するかのように浮き上がった大小の泡は確かに川の水だった。けれど音は炎のものだった。川の炎は段々と音を弱め、燻るようにパチパチと弾けて消えた。

泡の炎が収まると、今度はゴウゴウと激しく水の流れる音がした。これは間違いないと見た目の前の川は恐ろしいくらいの静流だった。
こんなに目の前で大きな音がしているのに、肝心の出どころが分からない。近づいても離れても、音の大きさは変わらない。ここはそういう川なのかもしれない。どこかで起こっていることを、川を通して自分に見せているのかもしれない。もしかしたらあの男の仕業かもしれない。気まぐれかもしれないし、何か意味があるかもしれない。どっちみち、なぜ僕に見せるのかはわからないけど、もう一度だけ覗いてみるかと再び川を覗き込んだ。


あった。さっきまで確かになかった底があった。
川の底ではなく、底に景色が広がっていた。
そこには端正な顔に赤黒い火傷を纏った男が立っていた。何かを叫んでいるけれど、その声は炎と水によって所々かき消されてしまっている。
ボウボウ、ゴウゴウと激しい音で遮られた声を聞こうと耳を近づけるも音が邪魔をして聞こえない。
なんて言っているんだ、もう少し大きな声で言ってくれ。
そのうち距離感を忘れた僕の耳は川に浸かっていた。シンと空気から隔てられた水の中だとこもって聞こえる。が、次第に音は制度を増して耳へと届いてくる。昔、何かの本で読んだことがあった。音は水中の方が何倍も遠くへ届く。


「ここは、俺の、…………!!」


水底から火傷の男の声が届いた。
聞き覚えのある、心地のいい音だった。

声は勢いよく耳を通り抜けると、その勢いで僕を水面から弾いた。思い切り尻餅をついた。
なんだ、そう思ったのも束の間、川が燃えていた。
さっきの泡の炎ではない、川面から本当の炎が上がっている。そして、そこにさっきの火傷の男が立っていた。


「ごめんな、ごめんなあカネダ」


僕はこの人を知っていた。
誰よりも古くから、昔から知っていた。


「遅いよ、タミヤくん」
「随分待たせたな」
「ほんとだよ。気が遠くなるところだった」
「一人で寂しかったろ、ごめんな」
「いいんだ、こうやってまた会えたんだから」
「悪いな。また待たせちまうかもしれない」
「タミヤくんが来てくれるなら、僕はいつまでだって待つよ」
「言ったな?約束だぞ?」
「うん。その代わり、必ず迎えに来てね」
「当たり前だろ、何度だって、すぐに迎えに行く」
「約束だよ」



果てしない約束を結んだ僕の体は、炎に包まれた。







あの後のことはよく覚えていない。
炎に包まれた後、身体がチリチリと燃えて全身が火傷を負ったように熱くなった。
さっきまで隣にいたはずの人がいつの間にかいなくなっていて、気が付いたら僕は河原で横になっていた。いつのまにか眠ってしまっていたらしい。
石の上で眠っていたせいか、体が痛い。

河原には大小様々な石が転がっていた。
綺麗な丸や平べったい円盤型、尖ったものや元々一つだったものが割れてふたつになったもの。
手元からいくつか取って積み重ねてみる。慎重に乗せれば、案外崩れない。


遅いなあと周囲を見渡す。
すぐにって言ったのに、と口を尖らせながら石を弄る。そういえば、いつ来るんだろう。誰が来るんだっけ?そもそも、僕は何を待っているんだっけ。


まあ、気長に待とう。
河原にはこんなに石があるんだから。

僕はまた一つ、石を積む。








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