地球の裏からラブコール


※現パロ/高校生くらい
※タミジャイが同じクラス
※ゼラ川君が特進クラス




「じゃあ、近くの席の人とグループを作って、教科書の問題をこの時計で30分までに解くように。地球儀は代表が持っていくこと」

ガタガタと動かされる椅子に突き合う机。忙しない音が教室中を駆け巡る中、俺は周りから距離を置かれていた。いじめられているわけではない。自分で言うのもあれだが、割と皆の輪の中心にいるような人間だと思っている。けれどこういった、グループになりなさいという時間が俺は苦手だった。大体いつも行動する奴なんて決まってるから、打ち合わせなんてしなくても自然にグループが出来上がっていく。ということは、必然的に輪に入れない奴も出てくるというわけで。なんでこうも日本の教育は一人ぼっちを作りたがるのだろうと珍しく真面目なことを考えていたら、前の席のやつがこちらに体を向けてきた。

「きゃは、タミヤぼっちじゃん。仕方ないから僕が組んであげるよ」

誰のせいで距離を置かれてると思ってるんだ。窓際最後列という教室の最奥の席の俺は、いつもグループ作成の授業で距離を置かれる。その一番の理由が前の席のジャイボという男だった。変人奇人の雨谷に関わったら何をされるか分からない、だから近づかないでおこう。それが暗黙の了解だった。幼馴染のカネダやダフでさえ、俺がジャイボと言葉を交わしている時は近づいて来ない。特にカネダは以前ジャイボに絡まれて以来、見かけただけで逃げるようになってしまったもんだからさすがに辞めるよう頼んだ。すると

「じゃあその代わり、タミヤが僕と絡んでくれるんだね」

と死刑宣告を受けてしまったものだから今現在、机というよりも体を突き合わせている状況に陥ってるわけだが。まあ、親友の無事が保証されるなら俺が周りから距離を取られることなんて安いもんだけど、それにしても。

「あの、ジャイボさん」
「何タミヤその呼び方気持ち悪い辞めて」

呼びかけただけでこの有様だ。くそ、ゼラの前では借りてきた猫に更に皮を5〜6枚被せてるくせに、俺の前では猫脱ぎやがって。顔を引きつらせるとそれに気付いたのか、長い足を組み肘をつきながらこちらを見てくる。

「なに、なんか文句あんの?」
「全くございません」
「ならよし」

そう言うと、白紙のプリントに名前を書くことすら放棄して地球儀をくるくる回し始めた。こいつ、絶対算盤でローラースケートやるタイプの人間だ。ほら、真面目にやらねえとこのプリント提出だぞ。そう言うと教室の反対側にいるカネダとダフの方を見やった。

「『ちょっと分からねえ所があったんだ、見してくんねえか?』って言えばイチコロだよ?タミヤ君のお願いなら何でも聞くでしょ?」

こいつ……怒りを通り越して、というより怒りすら感じずいきなり呆れに入ったが、よくお前今まで生きてきたな。俺が教師だったら半年で辞めさせてるぞ。まだ地球儀を回し続けているジャイボを余所目に教科書を捲る。こいつに巻き込まれて俺まで叱られるのはごめんだ。しかし、必要な地球儀を占領されているのでは問題を解く以前の話だ。貸してくれと頼んでもなんだかんだ言いくるめられて問題が解けずにカネダとダフに聞きに行ってジャイボの思うツボになるのが目に見えてしまう。こういう時、どう対処すればいいのか俺は知らない。そもそも、こいつの扱い方を心得てるのなんて世界中何処を探してもゼラくらいしかいないだろう。なんであいつこのクラスじゃないんだ、と文句を言いかけるもゼラは特進クラスだったことをすぐに思い出す。今頃地球儀を回す音よりも紙の上を走るシャーペンや消しゴムの音の方が響いているだろう。後で取扱説明書でもつくってもらおうなんてずっと一人の世界に浸かっていたせいか、いつの間にか向かい側が静かになっていた。ついに飽きたかなんて思って見てみると、何かを一心不乱に書いている。一つ興味があることを見つけたら、それに夢中になるのは昔から変わっていない。その調子で己を地軸にして世界を回すのにも飽きてくれないかなと心の中で思う。あいつが世界を手にしたら、どこかの誰かどころじゃない独裁者になって星が一つ無くなりかねない。世界を手玉に取る計画を辞めてもらおうと声を掛けようとすると、止まっていた地球がぐるっと回転し始めた。勢いよく回るその球体だったが、一部が赤い。ついに大陸一つを赤道下に追い詰めたか、なんて考えていたら回転速度が落ちてきた。周り方がゆっくりになってくると赤の正体が次第に明らかになる。何処かの国の上に貼られたそれは、何かが書き込まれた付箋だった。

「……これは反則だろ」
「地球一周なんて、ちょろいもんだね」
「お前なら地球一つどうってことないだろ」
「まあね。僕にかかれば世界の裏側から愛を伝えることだって出来るし」
「紙に手書きだなんて、随分古典的だけどな」
「分かってないな、紙とペンだから思いが伝わるんじゃん。無機質な文字列なんて何が嬉しいの?タミヤってほんとロマンの欠片も無いね、モテてるくせに」
「それは関係ねえだろ」
「あるよ?」

そう言うと、ジャイボはもう一度地球儀を回し始め、愉快に眺める。その様子はまさに世界を手にした帝王さながらだった。

「どんなに物理的に離れてようが、どんなに古典的だろうが、伝えた相手の嬉しそうな顔を見るのは誰だって嬉しいからね」

ニヤリと口元を歪めるのはずるいだろう。俺はラブレターというよりは赤紙に近い付箋を剥がすとラブコールへのレスポンスを書き込んで貼られた場所へ戻し、ちょうど半回転させてジャイボの目の前へと向けた。もちろん、帝王の文言に許される返答は「了承」の二文字だけしかないのだが。家臣の返事がお気に召したのだろう。口元がにんまりと上がる帝王は、今日も窓際の後ろから二番目の席で世界征服の計画をひっそりと練っている。






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