夢見る眼帯


0605 タミダフの日SS

鉄の球は重くて冷たかった。温かい僕の額に強く強くぶつかり、跳ね返って落ちた。額とはいえ、その衝撃は頭蓋骨にまで響き渡って耳の奥がぐわんぐわんと鳴った。その瞬間景色が真っ白になって、そのあと真っ暗になった。記憶が確かなのはゼラがもっと腕を高くとタミヤ君を急かしていたこと、僕の腕を雷蔵やデンタクに縛らせていたこと、そして、僕が掟を破って少女一号に触れているところを見られてしまったこと。その後はぼんやりしていてあまり確かじゃないけど、タミヤ君が僕を抱えてくれて死ぬな死ぬなと声をかけてくれていた気がする。そして何日か後に僕のところに来てくれた気もする。カネダがやられたって言ってた。まさかカネダも処刑されちゃったのかな?いや、カネダは臆病だから何かを壊したりしてまた閉じ込められているんだろう。俯いたまま顔を歪めたタミヤ君がいた気がする。僕らはいつも君に迷惑ばかりかけているね、僕も早く回復してタミヤ君を助けなきゃ。とりあえず、今は眠ろう……。


そういって眠りについてもう何ヶ月経っただろうか。両目に入る光は久しぶりに僕の脳を刺激した。辺りの景色はすっかり変わっていて、僕らが暮らしていたあの螢光町であるのは確かだけど何かが違っていた。あの寂れた廃工場も、黒い煙が吐き出される煙突も、煙に覆い尽くされた町も、疲れきった大人たちも、そこには確かにある。確かにあるのだが、何かが足りないのだ。すっかり回復した僕は光クラブに足を運んだ。聳え立つ廃工場の群れを抜けて奥の方、少し暗い通路を通って大きなハンドルを回せばそこには懐かしい光クラブが──


「……ない」


僕らがチェスやパチンコで遊んだり、仲間が増えてライチを完成させたり、浜里や先生を息絶えさせた秘密基地は最早あの時の形を留めてはいなかった。壁にこびり付いた血、錆び付き崩れ果てた玉座、燃え尽きて灰になった物体、そして


「ほ……ね?」


ギシギシと軋むベルトコンベアを下った先には埃をかぶった学帽や学ランと共に教科書や保健室で見慣れたあの骨が沢山散らばっていた。違う違う違う、何かの間違いだ、込み上げてくる吐き気を抑えながらそう自分に言い聞かせて歩き出して数歩、何かを蹴ってしまった。カシャンと音を立てて地面に落ちたそれは眼鏡だった。昔の記憶が脳裏を駆け巡って行く。血の気が引く音がする。まさか……光クラブはライチを完成させて永遠の少年になったんだ。これは夢に違いない。タミヤ君が、カネダが、ゼラがニコが雷蔵がデンタクがヤコブがジャイボが、死ぬわけがない。どうせ皆して僕を驚かせようって魂胆なんだろ?その手には引っかからないんだから。いつの間にか壁際まで後ずさっていたのか、背中にひんやりとした感触が伝わってきた。きっと皆ももう帰ったんだ。僕もいつまでも光クラブにいないで帰ろう。そういって振り返ったらまた何かを蹴ってしまった。もうさっきの眼鏡といいこれといい、皆小道具も凝ってるな、なんて思いながら拾い上げたのは僕の親友が凄く上手で、いつも持ち歩いていて、僕が最後に見たあれだった。けれど、その色は綺麗な銀色ではなく、血生臭い錆びた赤だった。これは、タミヤ君の───



「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」











「ダフ、ダフっ!」
「はっ、はぁはぁはぁ……あれ」
「ダフ大丈夫?だいぶ魘されてたけど……」
「僕……今病院で……光クラブが……」
「病院?どっか悪りぃのか?」
「保健室行く?」
「僕、パチンコで、タミヤ君に……」
「俺がパチンコでダフを?」
「いくらタミヤ君でもそんなことしないよ」
「う、うん、そうだよね……」
「早く帰ろうぜ?今日も光クラブあるってよ」
「そうだね、僕ちゃんと宿題やってきたんだ!」
「じゃねえとまたゼラに閉じ込められるもんな」
「そうなんだよ!もうあれはこりごり……」
「おーいダフ、行くぞー!」
「ダフ、早くー」
「……うん!」



放課後の教室で居眠りをしていたらしく、二人の親友に起こされ僕はまた家路へと着く。なんだか変な夢を見ていたみたいだ。僕はタミヤ君に脳天を撃ち抜かれ、眠っている間に光クラブは崩壊した。まさか、そんな事があるはずないと思いながら右目を少しだけこすった。そういえば、夢の中の僕は眼帯をしていなかった。




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