涙の跡に咲いた花


0603 タミカネの日SS

※高校生設定です。
※皆の天使・ドライがモブに泣かされます。
※田宮さん家の博くんは2番目です。
※もはやタミカネでもなんでもないです。






なんで……なんでこんなことになっちまったんだろう。どこでこんなにおかしくなっちまったんだ……??


田宮博 17歳。周囲の町から忌み嫌われる工場地帯、螢光町に住んでいる。黒い煙が雲をも覆い、昼夜問わず日がほとんど射し込まないこの町で、幼馴染の金田りく、田伏克也や秘密基地に集った光クラブの仲間たちと、多少のいざこざはありながらも目標を持ったりライチという機械を作ったりして、それなりに充実した毎日を送っていた。俺たちはこの町で確かに生きている。いや、生きてたんだ。


ーあの日、あの時までは。






“金田が学校に来ない”。そう告げられたのは6月も中頃のじめじめとした鬱陶しい気候の頃だった。高校に入ってからは別のクラスになってしまった俺とカネダは授業や部活の都合でずっと一緒にいるという日が限られていた。でも何も無い時はほぼ必ず一緒に帰るし部活があってもよっぽどじゃない限りカネダは待っててくれるので、最近下駄箱に上履きしか入ってないのは用事があって先に帰ったのだろうとしか思ってなかった。そしてその事実が告げられた晩、カネダの母親から電話がかかってきた。


「博くんごめんね。りくが最近学校に行ってないの。家族と喧嘩したわけでも具合が悪いわけでもなく、ちゃんと会話はするし部屋からも出てくるんだけど、学校に行かないか聞くと、『行けないんだ』しか言わないの。学校で何かあったかわかる??虐められたりしてない??」


昔からの付き合いでおばさんが俺を頼ってくれるのは凄くありがたかった。でも俺も今日カネダが不登校なのを知ったことや、虐めはないことを伝えた。実際、高校でカネダもクラスの奴らとそれなりに楽しくやってるみたいだし、浜里みたいな奴もいないから高校での虐めは俺の知る限りでは無いと思うことも付け加えた。


「そうなの……別に怪我をしてるわけでも物が無くなった様子でもなさそうなんだけど、あの子、そういうの隠すの上手でしょ??だから博くんなら何か知ってると思って……」
「すみません、力になれなくて。あの、今から行っても大丈夫ですか??」
「えぇ、是非来て頂戴。りくも博くんになら何か話すかもしれないわ」
「はい、じゃあ今から向かいますね」


そう言って電話を切ると、俺はカネダの家に向かう支度をした。途中でタマコに「こんな時間に遊びに行くなんて、お兄ちゃん悪くなったね〜」なんて茶化されたけど、カネダの家に行くことを伝えたら「なんだー」とつまらなそうに返事をされた。おいおい、カネダとはお前より付き合い長いんだぞ??なんて心の中でツッコミながらすぐに見慣れたカネダの家に着いた。チャイムを鳴らすとすぐにおばさんが出てきた。


「ごめんね、こんな遅くに」
「いえ、俺もカネダと話したかったんで」


そんなたわいない挨拶を交わしてると、奥からカネダが出てきた。俺の顔を見るなり固まったカネダはおばさんに声をかけられてやっと上がって、と呟いた。俺は後についてカネダの部屋に入った。見慣れた部屋、見慣れた姿。なのに、いつも目に映るのは天井ばかりだ。一体自分は気付かぬうちに彼の何を傷つけていたのだろう。久しぶりに触れた腕に電流が流れたように痺れが走った。いつもと変わらない顔、姿、声。なのに、昔の彼とはもう違う“なにか”が彼を取り囲み、彼の中を渦巻いていた。


「久しぶり」
「最近学校行ってなかったんだって??」
「行けるわけないじゃん……」
「だって虐められてないだろ??クラスの奴らとも楽しくやってるし」
「本当に上手だよね。明るくて、爽やかで、皆の人気者のタミヤくんは」
「何言ってんだよカネダ」
「なんでもそつなくこなすんだ。昔から、とても器量がいいと思ってたんだ。あ、いい意味だよ……」
「おいカネダっ!!」
「ほら、今だって、心配してるように周りからは聞こえるもんね……」


俺はカネダが何を言ってるか分からなかった。分からなかったから、掴んでた腕に力がこもった時に少しだけ、ほんの少しだけ顔を歪ませたカネダの表情を見逃さなかった。


「脱げ」
「え??」
「パンツ一枚になれ。親友なら出来んだろ??」
「ちょ、なに言って……」
「脱がねぇなら俺が脱がせるまでだ」


そう言い捨てて、俺はカネダの服をむしり取った。抵抗するけど俺の方が力は強い。あっけなく下着姿になったカネダのか細くて白い肌には、小さな赤紫色の痣が至る所にあった。しかも半袖になった時に見えないギリギリのラインで。


「誰にやられた」
「蚊に……刺されたんだよ」
「まだ蚊が出るには早すぎるぜ」
「ちょっとぶつけちゃって……」
「随分器用にぶつけるんだな」
「……んには」
「ん??」
「タミヤくんには分かんないよっ……!!」
「なっ、なんだよそれ!!」
「罰ゲームだったんだ」


「クラスの子達と数人で遊んでて……負けた僕ともう一人の子が罰ゲームすることになって。キスとかふざけたやつでほっぺにされただけだったんだ。だけどね!!その子、僕にキスすることに夢中になっちゃったみたい!!それどころか、僕のこと好きって言ってきたんだ、愛してるって!!あははっ、男同士なのにね!!その子、割と人気者だからそういう男色の気があるようには見えなかったんだ、だから放課後とかタミヤくんを探そうとしても足止め食らって!!トイレとかでも待ち伏せされて、個室に押し込まれて!!ほっぺとか手だけだったのに………しまいには口にしてきて……好きな人がいるからやめてって言ったら誰もいないトイレで脱がされて………こんなに……痕が……初キスも……好きな人と……したかっ……うっ、ううっ……」




うわぁぁぁぁぁあっ、そう表すのが正しいくらいに大粒の涙を零してカネダは俺の胸に顔をうずめた。今まで溜めて吐き出せなかった思いを全て出し切りわんわんと泣くカネダを見て苛ついた。まず、カネダを襲ってこんな痕をつけた奴に。次に、こんなになるまで気づいてやれなかった俺自身に。そして、その痕を付けたのが自分ではなかったということに。気付いたら、カネダは泣き止んでいた。泣き疲れて眠ってしまっていた。おばさんと母さんに許可を取って、今夜はカネダの家に泊まることにした。そっと布団に寝かせてやり、その隣に並んで寝た。うっすらと付いた涙の跡を指で撫でながら、自分の中の何かが弾けた。



どこでこんなにおかしくなっちまったのか。どこでこんな感情を持ってしまったのか。どうしてこんなことになってしまったのか。それは確実にカネダの泣き叫ぶ姿を見たあの日からだ。あの6月も中頃のじめじめとした鬱陶しい季節、見慣れた親友の部屋で、俺はか細くて小さな身体を抱きしめ、首に赤い花を咲かせた。





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