生まれた日(鋭ちゃん誕生祭2019)

#切島鋭児郎生誕祭2019
#切島鋭児郎誕生祭2019


※たいへんご都合捏造
※2年生の文化祭あたり想定妄想






「おめでとうレッドラ!!」
「烈怒頼雄斗〜〜!!」
「ハッピーバースデー烈怒!!」


ふわり、ふわり。
天使の羽根でも生えたかのように、雲の上を歩くかのように、柔らかくて少しこそばゆい感覚が硬いはずの身を浮かせる。
誕生日を祝われるのはなにも人生で初めてのことではない。かれこれ10回以上は経験している記念日だけど、今年はひと味違っていた。

ヒーロー育成教育機関の最高峰、国立雄英高校のヒーロー科所属というのは、それだけで各方面から大変な注目を浴びる。
オールマイトやエンデヴァーといった世界に名を轟かせるプロヒーローを輩出しているだけでなく、名だたるプロヒーローたちの指導を直に受けられる最高の環境下に身を置ける雄英生は、ヒーロー科の中でも特別な存在である。
それゆえに言動や行動、態度やその影響など、一挙手一投足に注目が集まるが、なぜそれが今年の誕生日と繋がるのか。話は昨年の秋、ちょうど一年程前まで遡る。


「観たぜ切島!」
「何をだよ??」
「お前、自分のことなのに知らねーのかよ!!もう再生回数300万回超えてるぜ??!」


文化祭の興奮がやっと冷めてきた頃、上鳴と峰田が談話室でワイワイとまだ騒いでいる。
何盛り上がってるんだよ、とツッコミながら差し出された画面を覗くと、そこには大阪で暴れた敵を抑制する俺の姿があった。
ファットガム事務所でインターン生として活動する最中、一般市民の誰かが動画投稿サイトへ匿名で投稿したらしい敵退治の様子がサイトのトップページにデカデカと載っている。


「な、なんだこれ?!」
「大阪でのお前の活躍らしーんだけどさ、メチャクチャかっけーな!!」
「コメント欄なんか黄色い歓声で埋め尽くされてら!!チクショー、俺だって……」


『【漢気】烈怒頼雄斗vsカッター男【完全勝利】』と題されたその動画には、大阪での敵との一連の騒動が収められていた。三分にも満たない短い動画はゴニョゴニョと言ちる峰田をよそにクルクルと再生回数を伸ばし、コメントには熱い言葉が並べられていた。

『これ誰?』
『雄英ヒーロー科の生徒だって!』
『誰かヒーロー名よろ』
『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』
『紅みたい!!』
『めちゃめちゃかっこいいな??!』
『個性もだし、言ってることが漢臭え!!だがそこがいい!!』

まるでヒーローのような賞賛を浴びる画面の自分になんだか小っ恥ずかしさを感じながら、その時は並ぶ嬉しい言葉を純粋に喜んで終わった。
その後、SNSでファットガムの拡散(らしい、天喰先輩からのタレコミだ)によってその動画は爆発的に試聴された(らしい、ファットからの報告だ)。

そして俺の名前はあれよあれよと広まった。
そしてそして、何故か公表していないのにどこから漏れたのか誕生日が知られ、文化祭の時期と重なることも相まって、今年は内外色んな人から祝われる年になった(誕生日はファットが事務所のHPにて広めたと、後に天喰先輩から聞いた)。


「色んな人から祝ってもらっちまったぜ」
「今日イチ人気だったんじゃねえの?烈怒頼雄斗」
「キャーキャー言われやがって……」
「いいじゃねえの、めでたい日なんだから」


文化祭ですれ違う、ありとあらゆる老若男女からの祝いの言葉は、どれも温かく、嬉しいものだった。こんなに沢山の人から祝われた誕生日は初めてで、心の底からありがたかった、ありがたかったのだが。


「(なんだ、この違和感は……)」


声援やファンレターからプレゼントまで抱えきれないほどのお祝いを貰って満たされているはずの心がどうも騒がしい。嬉しさで浮き足立っているのとはまた違う、ふわふわと浮いている感覚。踏みしめようとした足に力が入らないような、少し気持ち悪い感覚。


「(沢山の人にこんなにも祝ってもらって感謝しきれねえはずなのに、まさか自分は満足してねえのか……??)」


なんて強欲な気持ちを抱いているのかと漢気の欠片もない邪な感情を情けなく思っていると、隣を歩いてた上鳴たちがちょっと待ってて、と寮の前で足を止められた。文化祭の熱は秋の夜の澄んだ空気に冷やされ、熱気があったとはいえ少し肌寒い時期。嫌な浮遊感はせっかくのめでたい日を不安定なものに変えていく。漢気を大切にしているのに変なところで悶々と考え込んでいて、入ってこいという合図が聞こえなかった俺は眉間に深い溝をこしらえた爆豪によって寮の中へと投げ飛ばされた。


「オメーが入って来なきゃ始まんねーんだよクソ髪!!!」


高校球児並みの力で投げられ、目の前のテーブルに激突しそうになった身体に何かが触れた。その瞬間、視界がくるくると回り、気付くとその身は宙に浮いていた。


「危ないやろ爆豪くん!!」
「間一髪だったぞ!!」
「ッセーーー!!コイツがいつまでもウジウジしとるのがいけねェんだわ!!!」
「まーまーそう怒りなさんな爆豪さん」
「かっちゃんの投げた切島くんの勢いで紙吹雪が……!!」
「すげーな、爆豪と切島」
「今日ばっかりはかっけえの座を譲ってやるよ」
「ブハッ、静電気で一番キラキラしてんじゃん電気くん」
「ウ、ウェ〜〜〜〜イ」
「わっ、すごいキラキラ」
「すごーい!硬い切島がフワフワ浮いてるー!!!」
「おめでたい日にピッタリね、切島ちゃん」
「僕のレーザーで輝かせてあげる☆」
「祝宴の開催」
「ケーキ焼けたぞー」
「切島さんをイメージしたスペシャルブレンドも入りましたわ」
「羽ばたく者よ、美しき音色を奏でるのです」
「こっちも準備OK!」
「タンバリンの準備も出来た」
「いくよーっ!せーの………」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「切島鋭児郎!!!お誕生日おめでとう!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



そこからの記憶は、正直無い。
紙吹雪が談話室中を舞い、鳥は囀り音は弾け、去年のバンドのアンコールが一年越しにきたかのような大合唱が寮を包んだ。麗日の個性が解除され、しっかりと足を地につけた瞬間、キラキラとした眩しさが目に染みたのかしばらく涙が止まらず慌てたクラスメイトに宥められ、更に漢泣きをしたことだけはしっかりと覚えている。次の日目と鼻が髪の毛よろしく真っ赤に腫れていたからだ。
しばらく上鳴や瀬呂に茶化されてたけど、不思議とあの気持ち悪い浮遊感は無くなった。
なんでだろうと小首を傾げていると、ハッと隣で暴君が鼻で笑う。


「どうせテメェのことだから、祝われてるのが自分じゃなくて『烈怒頼雄斗』なんじゃねえかとかふざけた事思っとるんじゃねえのか?」
「えっ………」
「んなわけあるかボケ。テメェは烈怒頼雄斗の前に『切島鋭児郎』なんだよ。テメェの方が先に生まれとるんだわボケ」



昨日は烈怒頼雄斗の誕生日。
老若男女、沢山の人が祝ってくれた。
嬉しい祝福の言葉でふわふわと浮いた。


昨日は俺の誕生日。
おっきな声と歌で、皆が祝ってくれた。
『切島鋭児郎、おめでとう』と。


ヒーローが目を腫らしてちゃ不安にさせるからな。俺が赤くするのは真っ直ぐそびえる髪と燃える漢気だけだ。今日もしっかりと前髪を立てる。いつもより一段と決まった姿を見て、ヒーローになる前の俺を知る唯一のヒーローが、元気に笑う。


「今日もかっこいいじゃん、切島!」




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