「そんなこと、言わないで」

今にも泣き出しそうな顔で、彼女は言った。


「どうしよう。ドキドキして眠れないんだけど」
あたしはリョーマの隣でぽつりと呟いた。
リョーマはふ、と笑ってあたしを抱き寄せる。
「子守唄でも歌う?」
「え、歌ってくれるの?」
「じょーだんに決まってんじゃん」
「あっそ」
額にリョーマの唇があたる。あたしはそのまま目をつむる。と、リョーマが体を起こした。
「え」
嫌な予感がしてあたしはまぶたを持ち上げる。
視線を天井へ持っていくと、にやりといやらしく笑ったリョーマと目が合って、嫌な予感は見事に的中しそうな気がした。
「嘘、でしょ」
「そう思う?」
リョーマはあたしのパジャマのボタンに手をかけ、次の瞬間には胸元に唇をあててくる。
「ん、ちょっと、リョーマっ」
「眠くしてあげるって言ってんの」
「ばか、だめ」
胸元から顔を上げたリョーマはあたしの目をじっと見つめて、それから左手をきゅ、と握った。
ダイアモンドのエンゲージリングと、シンプルなシルバーリングが輝く、左手を。


「…………ふつう喜ぶもんなんじゃないの、こういうの」
「だって」
俺は一気に機嫌が悪くなり、今にも泣き出しそうな彼女が、その理由を口にするのをじっと待った。
「だって、そんなずっと先のことなんてわかんないじゃん」
中学の卒業式の後だった。
「リョーマが心変わりしたら、その約束は破られちゃうんだよ」
俺が差し出したシルバーリングと、贈った言葉を、彼女は簡単に受け取ってはくれなかった。

いつか俺が帰ってきたら絶対結婚しよう。と、そんなことを言った。
いつか。俺が彼女を養うことが出来るようになったら、と。
「俺が心変わりすると思ってんの?」
「思ってないし、思いたくないけど、わかんないじゃん」
このままじゃ堂々巡りになる気がして、俺はリングの入った箱を自分で開けた。リングを取り出して彼女の左手を引っ張る。
「やだ!」
軽い抵抗など気にせず、リングを彼女の薬指におさめた。
薬指にぴたりとはまったリングを見つめた彼女の瞳から、つ、と涙が伝った。
「待ってて」
「待ってるけど、でも、」
「絶対迎えに来る」
「ぜったいなんて、ないもん……」
「俺はずっと好きだから」
彼女は最後まで頷いてくれなかったけれど、シルバーリングを外したりも、しなかった。


あたしはリョーマに背を向けて、二つの指輪をしている左手の薬指を見つめていた。
泣いたり笑ったり、様々なリョーマと、様々なあたしが、思い出されるの。
「ねえ、何でそっち向いてんの」
「!」
あたしに上から覆い被さったリョーマは、首筋に唇を押し当ててきた。
「ちょ……、あとつけちゃダメだからねっ」
あたしは明日、この人と結婚するのだ。






no title(越前リョーマ)
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