「わっ」
「うわバカ!」
凍りついた水たまりの上を歩いて、滑って転びそうになったあたしの腕を掴んでも、勇人は全然余裕そうにしている。びくともしない、一諸に転びそうになったり、よろけたりしなかった。滑って転びそうになったことよりもそっちにびっくりして、あたしはぽかんと勇人の顔を見つめる。勇人は呆れたように笑ってあたしの腕を離して、背中をぽんと叩いた。促されて歩き出すあたし。
「ありがと勇人……」
「美月気ぃつけなよ、小学生じゃあるまいし」
「だって勇人がいるからいいと思って」
心からの言葉だったけれど、思いがけず勇人がほっぺを赤くして黙ってしまうから、あたしは少し焦った。そんなつもりで言ったんじゃないのに、だんだん恥ずかしくなる。
「さ、むい、ね、そりゃ道路も水たまりも凍るよね」
「……そだね」
ここのところ、なんとなく、なんとなくあたしたちの間にはぎこちない空気が流れる。
意識しているのだ、ふたりして、今更。生まれた時からずっと一諸にいたくせに、今更。もうそれが当たり前だと思っていて、このまま、そうなるんだろうと思っているのに。
勇人の手を盗み見る。いつの間にか、あたしよりずっと大きくなってしまった勇人の手。
「……勇人も男のひとになってくんだね」
「まーね」
「手、つなごう勇人」
差し出した手のひらを、勇人は何の躊躇いもなく握る。
「美月の手冷た過ぎ」
「あたし心があたたかいからね」
「うーわ、自分で言う?」
「すぐあったかくなるよ、どきどきしてるもん」
「俺も」
顔を見合わせて笑って、「付き合おっか」と勇人が言ったので、あたしは「うん」と頷いた。






no title(栄口勇人)
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