※準太誕生日おめでとう'07な文章



もうあと十分で今日が終わる。
期待していなかったと言えば、それはもちろん嘘になる。俺はあいつからの「おめでとう」を待っていたし、というか、今日になった瞬間に絶対あると確信していた。
しかしその今日になった瞬間だとか、学校で会った瞬間だとか、昼にふたりきりになったときだとか、俺は実はずっと待っていたというのに、あいつから何か言う素振りは何もなかった。

まさか忘れてるのか? いや、それは有り得ない、だって利央や和さんに「おめでとう」を言われている俺を、少し遠くでにこにこしながら見ていたのだ。もし、もしも忘れていたのだとしても、そこで思い出したはずだ。
別にプレゼントが欲しいとか、そんなんじゃなくて、ただ、ただ、あいつから「おめでとう」と言ってもらいたかっただけなのだ。ただ祝って欲しかった。それなのにあいつは、あいつは。
部活が終わって、ふたりで帰っている間も、あいつの家に着いた別れ際にも、何も言わなかった。
別に。別に、誕生日の人間に必ず「おめでとう」を言わなければならない決まりなんてないし、ただ俺が面白くないだけで……。

ベットに俯せに寝そべり、携帯を手にうだうだといろんなことを考えていると、その携帯が鳴った。メールだ、メールを見ようとしたら電話がかかってきた。あいつだ、美月!
「……もしもし」
『準太誕生日おめでとう!』
「え」
『時計見て時計! 早く!』
慌ただしく言われて、一度携帯を耳から外して時刻を確認する。23時59分。今日が終わる一分前。
『えへへ、あたしが最後?』
ひととおんなじじゃ、嫌だったの。耳に届く嬉しそうな声に、やられた、と、俺は熱くなる頬を押さえた。
『準太の誕生日、冬でよかった』
「なんで」
『だって夏だったら、こんなことできないよ』
「あー、俺死んでっかんな」
『うん……、ねえ準太』
「ん」
『実はね』
鼻をすすりながら告げられた言葉に、何でおまえそれを早く言わないんだ今日寒いんだぞ風邪引くだろばか! のうち、言いたいことが何一つ言えないまま、俺は慌ててカーテンを開けた。
静まり返る夜の中に、笑顔の美月がいた。
『あ。眼鏡準太だ』
耳にあてたままの携帯から愛しい声が響く。
次の瞬間には上着を掴んで部屋を飛び出していた。「準太! 何時だと思ってるの、静かにしなさい!」母さんの怒鳴り声に「ごめん!」と軽く謝って、やっぱり慌ててスニーカーを履き、玄関のドアを勢いよく開けた。

「美月」
「おめでと準太、これ、ケーキ作ってき」
差し出された紙袋も一緒に美月を抱きしめた。ああ、こんなに冷たくなって。
一体いつからここにいたんだ、俺があと十分……なんて女々しいことを思っていらいらしていたときにはもう、おまえはここにいたんだろう?
「じゅ、準太、ケーキつぶれるよ!」
「でもおまえ冷てーし」
「大丈夫だよ、すごい厚着してきたもん」
ね、と、背中を何度かやさしく叩かれて、俺はやっと美月を開放する。
「準太こそちゃんと上着着なよ」
そう苦笑いをこぼす美月の唇を塞いだ。唇も、こんなに冷たい。冬なんだぞ、ばかだろ、たかが誕生日に、こんなになるまで。
俺はもう一度、今度はケーキの入っているらしい紙袋に気を遣って美月を抱きしめた。

「……準太うれしい?」
「うれしい」
「よかった、ごめんね、ずっと心のなかでおめでとうって言ってたんだよ」
「いいよ、もう」
だけどいまは、もう少し、このままで。
おまえの身体があったまるまで、なんだか泣きそうになっている俺が落ち着くまで、それまではどうか、どうかこのままで。




HAPPY BIRTAHDAY!!


happy birthday★(高瀬準太)
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