∴ ムードは前世に置いてきた



※キスの日(5月23日)記念十ヨハ


「なんていうか…十代はここぞって時に強いよな」


手元のカードに目を落したまま、ぽつりとヨハンが言った。

「引きがいいってことか?」

ひとつ瞬きを挟んでから、十代は首を傾げる。
その間もカードを選別する手は止めない。
デッキに入れられるのはあと一枚。
サポートカードを入れるかモンスターを入れるか悩むところだ。

とりあえず何でもデュエルに結びつけるのな、とヨハンは苦笑し、「デュエルに限らず、さ」と続ける。
「絶体絶命の状況でも、お前と一緒なら何とかなる気がするんだ」
力強い言葉の中に確かな信頼を感じ、十代は面映ゆさに身じろいだ。
一方のヨハンは言うだけ言って満足したのかひとりうんうんと頷いており、十代の様子などまるでお構いなしである。

「そりゃこっちのセリフだっての。俺が全力で突っ走れるのはお前のサポートがあってこそだぜ?」

平静を装い応じると、ヨハンは半目で「またそういう殺し文句をサラっと…」と口を尖らせた。
随分と自分のことを棚に上げた発言だと思う。


「本当のことを言ったまでだろ。悪いかよ」
「おう。俺が恥ずかしくて死ねる」

言って、ヨハンは十代をじっと見つめた。
本人は真面目な顔を作っているつもりなのだろうが、いかんせん口端がひくついている。
照れより笑いが優先しているのが一目瞭然だ。
真剣そのものの言葉を茶化されて、十代はむっと眉を寄せる。
向こうがそうやってはぐらかすのなら、こちらにも考えがあるというものだ。

そうかそうか、とごく軽い調子でヨハンの両肩に手を置き、十代はにっこりと人懐こい笑みを浮かべる。
一瞬不思議そうな顔をしたものの、ヨハンもつられてにかっと笑い返す。
そして数秒、二人して意味もなく微笑みあう。
にこにこにこにこ…。
和やかな雰囲気が漂い始めたところで十代はそれまでの態度をがらりと変え、真剣な面持ちでヨハンを見つめた。
目を丸くする彼の肩を逃げられないようがっちりと固定し、ぎゅっと指先に力を込めて一言。

「ならもっと言ってやる。俺にはお前が必要だ」

俺にはお前が必要だ。
ヨハンの目を真正面から捉え、真面目くさった口調で一語一語訴えかける。
真剣味の足りない親友へのちょっとした意趣返しのつもりであった。
果たしてヨハンは十代の思惑通りぴたりと動きを止め真顔になったのち――盛大にふき出した。

「やめろ、腹がよじれる…!」

ははははは!ともはや憚ることなく笑い出したヨハンに、十代は何とも言えない気分になった。
ここで笑うか普通?と傍らの相棒に尋ねるものの、ハネクリボーは愛らしい瞳をぱちぱちと瞬かせるばかりで答えてはくれない。

「おいおい…そりゃないぜ」
「わりぃわりぃ、生真面目な顔した十代とかおかしくって!」

全く遠慮のない言葉に流石の十代もかちんとし――煩い口は塞いじまえ!とばかりにヨハンの唇へ喰らいついた。





カードと色気どこいった


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