∴ シーソーゲーム ※学パロ 僕の心には獣が住んでいる。 それもひとたび暴れ出せば制御不能のとびきり危険な奴だ。 そいつはじっと僕を見つめ、心を食い荒らす機会を伺っている。 俺達友達だよな。 名前も知らないクラスメイトはそう言って笑う。 友達?誰と誰が。友愛を告げたその口で人を呪う呪詛を吐く。そんな奴を誰が信用する? その軽薄な二枚舌を割り裂いて、二度と話せぬようにしてやろうか。 僕の眉根が寄ったのにも気がつかず、クラスメイトは尚もまくし立てる。 これ以上不快な音を耳に入れたくなくて、教室を後にした。 その場しのぎの言葉に上っ面だけの関係。僕の周りはそんなものばかり。 くだらない。ああくだらない。 “本当にくだらないのはお前だろう?” 心の底で獣が低く笑う。 うるさいうるさい黙れ。そんなことは言われなくてもわかっている。 …そう、本当はわかっている。 貧しい関係しか築けないのは、僕自身が貧しい人間だからだって。 でも、だからといってどうすればいい?今更変わることなどできるものか。 “変われるさ。変わろうと思う心があるのなら” 随分と簡単に言ってくれる。 “逃げるのか” ああそうさ、悪い? “いいや。でも、逃げつづけるのはしんどいぞ” …そうかもね。 僕の返答が不満だったのか、ひとつ息を吐くとお喋りな獣はそれきり黙り込んでしまった。 黙れと言ったのは僕なのに、いざそうされると獣にまで見捨てられたようで。 腹の底からふつふつと理不尽な怒りが湧いてくる。 あいつはいつもそうだ。 僕が暗いところへ行こうとするとふらりと現れて、心を好き勝手に食い荒らす。 おかげで僕は殻に閉じこもることも、かといって破ることもできず、宙ぶらりんだ。 …変われるのかな。 変わったらこの息苦しさは消えるのかな。 答えのない疑問が泡のようにぷくぷくと浮かび上がる。 ――変われるさ。 中途半端な期待を持たせるあいつの言葉に、呑まれそうになる。 ああ、やっぱり獣なんてろくでもない。 期待を裏切られて立ち直れるほど、僕は強くないのに。 どうせなら臆病な僕を一息に飲み込んでくれればよかったのだ。 それならきっと、こんなに苦しくはなかった。 |