∴ ノンバーバルコミュニケーション 背中あわせというのは不思議なもので。 姿は見えずとも相手の様子が何となくわかったりする。 きっと今、十代は何か言いたそうな目をして、口を開けては閉じるを繰り返しているのだろう。 彼がこういう仕草をした時、俺の行動はいつも決まっていた。 「…ヨハ、」 「そうそう、明日の実技の話だけどさぁ」 躊躇いがちにかけられた声を中身のない言葉で黙殺する。 努めて作った明るさは我ながら白々しいものだったが、俺だって必死なのだから仕方がない。 体ごと振り返ると、十代はほっとしたようながっかりしたような微妙な表情を浮かべ、「ああ、ヨハンは万丈目と対戦だっけ?」と乗ってきた。 「そう。あの変な精霊たちがどう闘うのか…ワクワクするぜ!」 「あいつらああ見えて結構強いからなぁ。気をつけろよ?」 「俺だって負けてないさ!」 「どうかなー?」 「なんだとこのっ」 軽く肘で小突くと、十代は「いってー!」と大げさに転げ回った。 オーバーな反応に思わず笑みがもれ、自然と表情からぎこちなさが抜けていく。 床に転がったまま脇腹をおさえ、「何笑ってんだよ」と唇を突き出す十代も、どこか楽しげだ。 俺と彼の間には、すっかりいつも通りの空気が流れていた。 うん、これでいい。 のらりくらり、かわし続けよう。 時間が経てば十代だってそのうち勘違いに気づくはず。 もし彼の口からこの話を聞くとしたら、それは今じゃない。 10年くらい後で、「あの頃は若かったなぁ」なんて酒の肴にでもすればいい。 こうして俺は、今日もまた蓋をする。 |