これは仕事だ、仕事なんだ。
 無心になれ、俺
 何も考えるな、このシーンさえ終わればもう修羅場はない…!


「あー太一君と大君もうちょいくっついて」


 もう十分すぎるくらいくっついてるんですけどぉおおお!
 何が悲しくて野郎とこんな狭いとこにくっついてなきゃいけねぇんだッ!


「こう…ですか?」


 そう呟きながら八神は身を捩りながら俺にくっつきだす。

 流石役者、嫌な顔一つせずにやりやがる。
 啓人曰く、コイツと俺は同い年らしい(つまり、タイキとも同い年ってことだな)
 

「いいねぇ!あ、大君、腕は太一君の背中に…」


 って、まだくっつくのかよ!?

 こ、心を無にするんだ俺…ッ!
 一度引き受けたもんから逃げ腰になるなんざ、男じゃねぇだろ!
 

「…ッ、こ、こう…です、か?」


 羞恥心に呑み込まれながらも、八神の背中に腕を回す。
 今なら羞恥で死ねる…ッ!


「ktkrrrrrrr!そのまま維持だよ!」

「はい…」


 早く始まれ!早く終われ!


「くくっ、すっげー心臓バクバク言ってるぜ」

「!? う、うるせぇ…ッ」

「ま、俺は役得なんだけどな」


 息とともに呟かれた何か、あまりの小ささに俺はこの密着度でいても聞きとれなかった


「え、なに聞こえな…」

「それじゃ始めるよー!よーい!アークション!」



 俺の声は監督に遮られ、そしてコイツの役者としてのスイッチが入った瞬間だった。




追手から逃げていた大を太一が匿い、2人でロッカーに入って隠れているというシーン。

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