何度か戯れに動物を拾ったことはあったけど、人間なんて拾ってきたらさすがの僕に甘いおじ様も怒るかと思ったら、そうでもなかった。むしろさすがはなまえだ、なんて頭を撫でられた。
ふむ、手品の相手がシリウス・ブラック君だったからかもしれない。シリウス君があっちにいると、どうしてもこっちの情報が少し洩れちゃうし。
ぱたぱたぱた、部屋の外から珍しく音の聞こえる足音。此処に来るのはおじ様か僕の世話係だけだから、こんな音は久しく聞いていない。
ソファーで寛ぎながら、動向を見守るようにドアを見て聞き耳を立てていると、間もなくドアが開け放たれた。
「っなまえ様…!」
「なぁに、ヴァルブルガ?ノックは?」
「!も、申し訳御座いませんでした!」
「いいけど、それで何?」
僕より二十ぐらい年上の女性に敬語を使わないのはどうかと思うけど、使ったら使ったで恐縮されちゃうだろうし、此処ではそれが当たり前。
珍しくも汗をかく程走ってきたらしいヴァルブルガに問えば、ヴァルブルガは興奮を隠しきれていない顔で僕に近寄り跪いた。
「なまえ様、なまえ様!あの手品、なまえ様でしょう?なまえ様が手品をかけてくださったのでしょう…?!」
「ヴァルブルガ、ちょっと落ち着いてよ。手品?」
「シリウス・ブラックに、私の息子に手品をかけませんでしたか…?!」
「ああ」
合点が行った。
「嬉しい?」
「はい、勿論です!」
「うん、じゃあ良かった」
にこりと笑って、ヴァルブルガの頭を撫でる。心から嬉しいのだと顔で、態度で物語るヴァルブルガに、僕も少し嬉しくなった。
僕はお気に入りには基本的に優しい奴なのである。
「じゃあ、もう下がってもらえる?」
「は、はい!畏まりました…!」
従順に一礼してからいなくなったヴァルブルガの後ろ姿にまた笑顔を浮かべて、僕はポケットからトランプの束を取り出した。
余談だけれど、僕の上着にはどれもトランプが入るぐらいの大きめなポケットがついている。
「まったく皆、ただの手品師に期待しすぎだよね」
パララ、とトラップをシャッフルしながらわらう。
ふとシャッフルを止めてトランプの山の一番上をめくれば、ジョーカーだった。
偶然?いいえまさか、ただの手品ですよ。
「そろそろ僕の出番、来そうかなぁ…」
おじ様の思想にも、魔法界の行方にも、平和な世にも、興味なんて無い。
でも、僕の予感はよく当たる。