「ちょいとそこ行くお兄さん、お一つ手品などいかがでしょう?」
ぱららと音を立て、手に持っていたトランプをシャッフルさせながら笑えば、お兄さんは鬱陶しそうに僕に二三言からかいの言葉を投げ掛けた。
まぁ仕方ないと言えば仕方ないかな。この魔法界においては普通、手品なんて信じる方が馬鹿だし。僕、ローブで顔隠してて怪しさ満点だし。
「あらあら随分と気のお強いことで。なら…どうでしょう?僕と勝負致しませんか?」
にやりと笑えば、お兄さんは興味を引かれたのか僕に近寄ってきた。内容を尋ねられ、自然と浮かんでくる別の意味の笑みを何とか押し込める。
「ルールは簡単。物は何も使いません。僕が貴方に手品をかけます。貴方の見える世界が変われば、僕の勝ち。変わらなければお兄さんの勝ち。どうです?簡単でしょう?」
要領を得ない、と顔をしかめたお兄さんをまぁまぁ、と言いくるめお兄さんと向かい合うように立ち上がる。
「お兄さん、背高いですねぇ。ああ、失礼。では――心の準備はよろしいですね?」
微かな慈悲の最終確認は軽くあしらわれ、瞼を閉じるお兄さんに声には出さず御愁傷様、と口を動かす。
「1、2、3…!」
ゆっくりと目を開けたお兄さんの瞳を見て確信。相変わらず、僕の手品は天才的だ。
「…いかがでしょうか、僕の手品。ほぉら、世界が変わったでしょう?」
ぼんやりとしながらも確かに頷いたお兄さんに、くすくすと笑う。僕の手品にかかった彼にはもう、取り繕う必要はない。
一頻り笑った僕に、お兄さんは窺うように質問してきた。
「僕の名前ですか?僕は、」
瞬間、右腕に走った痛みに眉を寄せ、小さくため息を吐いた後苦笑を浮かべる。
「…あらら、おじ様が僕を呼んでいるようです。僕の名前、知りたいのでしたら貴方もご一緒に来られません?ええ、心配は要りません。僕が面倒を見ましょう。
――さぁ、お手をどうぞ。シリウス君?」
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