クリアランス | ナノ




フィンクスが洗濯機も上手く使えない可哀想な子だと判明し、俺が掃除に追われた日から幾日か。仕事で無く蜘蛛の手伝いの為に念を使う事前準備をしに出掛けた俺が次に家に帰られたのは、予定よりも三日も遅れての事だった。
途中で腐れ縁の昔馴染みから着信さえなきゃ、殺人数は八百そこらで済んだものを…まさか次の俺も参加する蜘蛛の略奪先がサンディアル国宮殿だったなんて予定外もいいとこだ。

「よう、ゴールドオーガ。ニュースになってるぜ」

帰って早々、にやつきながらフィンクスがテレビを指さした。確かにテレビからは、ゴールドオーガによる発覚しているだけで五百人以上の殺害がどうたらとアナウンサーが真面目な顔で話しているのが聞こえて来る。…五百、ねぇ?半分も発覚してないから上出来。

「相変わらずお前は見た目も殺しも派手だよな。そろそろハンター協会辺り動くんじゃねぇの?」
「どうかな。殺人しても微妙なラインの場所狙ってやってるし…正義の個人は動くかもだけど団体は動けねぇんじゃねぇかな」
「えっ、お前んな事考えながら殺してたのかよ」
「俺は常にお前の軽く十倍は頭使って生きてると考えろ」

人差し指をフィンクスの眉間に突き付けてビシリと言い放ち、さぁ風呂風呂とバスタオルを腕に引っ掛け下着を取りに部屋に向かう。
その後ろをフィンクスがついて来た。…いやいや、お前の身長が今の半分だった頃ならまだしも、今の歳でいかなる時もお兄ちゃんを追い掛けるのはちょっとアレだろう。俺バスタオル持ってるんだから風呂行こうとしてるってわかるだろ?ん?

「なんか嫌な事でもあったか?」
「…んー?何、俺固い顔でもしてた?血臭好きじゃないしなぁ、強張ってる?」
「違ぇよ、勘」
「お前、マチちゃんじゃねぇんだから当たんねぇよ」

タンスから下着を取り目的達成した俺は、笑い飛ばしてすれ違い様フィンクスの肩を軽く二度叩いてから風呂場に向かった。
嫌な事、ねぇ。やっぱ一緒に居た時間の長さとかでなんとなくは俺のピリピリした気持ちが伝わったりしちゃうのかもな。
嫌な事はあったんじゃなく、これから起こるんだけどな。
バサバサ服を脱いで洗濯かごに放り、風呂場に入って蛇口を捻る。シャワーの水が適温のお湯に変わるのを待ちながら真顔で目の前の鏡を見た。

「…王様、元気かな」

そうあって欲しいと願う。
俺は、サンディアル国の国王様に多大なる恩と引け目がある。だからあの人は死なせてはいけないし、国も脅かさせてはいけない。国を脅かすのは即ち、直接の殺害で無くても近隣国との戦争を誘発し間接の殺害に陥らせる恐れがある。
だから、俺は蜘蛛の手伝いをこなしながらも王はもちろん国を守らなければならない。

熱いシャワーを頭から被る。

――瞬間、風呂場のドアが開いた。


「…フィンクス、せめてノック」

シャワーを止めて引き攣り顏で睨み付けると、フィンクスはそんな俺に構わず何やら慌てたように俺の携帯を目と鼻の先に突き出してきた。

「電話!シェドからだぞ、お前何したんだよ!」
「あー…何だろ」

シェドとは、次の蜘蛛のお仕事で唯一俺と利害目的が一致している相手だ。しかし、奴は俺に作戦考えるの丸投げして来たんだし、後話す事は俺が立てた作戦を伝えるだけなはずだけど。残りは当日行動あるのみだし。…何か予想外な事態が起きでもしたかな。
フィンクスが早く電話取れよと睨みつけて来る。
フィンクスや蜘蛛の子達にとってあいつはまだ自分達が幼かった頃に大人として護ってもらった相手で、しかも強いからと憧れの対象らしい。俺にとっては、あいつは奴隷の印象が強い上に王様を護るという下でしか意見の一致しない面倒な相手なのだが。
仕方無いから携帯を受け取り、通話を始める。

「今風呂なんだけど、何?」
『仕事が入った。この先Xデイまで連絡つくかわかんねぇから先に作戦だけ教えろ』
「…おい、勝手過ぎんだろ」

俺は電話の向こうの相手をぶん殴りたくなった。俺は自分を短気ではないと思っているし暴力にも中々訴えない方だが、こいつは性格悪いから別。

『何だよ王子様、天才のくせにまだ作戦も立て終わってねェのかよ』
「あー色々煩っ。まだご意見番のつもりかよ。んな文句あるなら作戦ぐらい自分で立てろっての。俺は本当ならもうあの国とは関わり合いたくねぇんだよ」
『テメェはあの方の優しさに甘えて逃げた負け犬だもんな』
「はいはい、犬はお前だろ。もういいや、護りは全部俺がやるからお前はさっさと目的のもん奪って蜘蛛の仕事終わらせろ。出来るだけ殺さないでスピード重視、それだけでいい」
『へェ、良い作戦じゃねェか』
「だろうとも、面倒はほぼ俺が引き受けてやったんだからな。もういいよな、切るぞ」
『じゃあな、王子様』
「じゃあな、野良犬」

相変わらず、こいつと話すと気分を害する。通話を切った携帯を、ずっと突っ立って俺達の会話を聞いていたフィンクスに返した。
これがクロロさんとかシャル君とか、何ならノブナガ君あたりでも聞かれちゃ絶対まずいのだが、フィンクスには聞かれても何も問題ない。何故なら馬鹿だから。核心は何も話してねぇしね。

「フィンクス、もう出て行かない?寒いんだけど」
「…シェド、お前の事王子とか呼んでたよな?」
「そうね、昔のあだ名。ままごとでいつも俺が王子役でアイツが飼い犬役だったんだよ」
「どっちも似合わねぇな」
「俺は似合わないけど、アイツは中々似合ってたよ。ずっと飼い犬としてしっぽ振ってりゃ良かったのに」

もし野良犬に聞かれれば「テメェの方が似合ってた」と皮肉全開で言われるんだろう言葉を吐いて、俺は風呂場のドアを自分で閉じた。



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