クリアランス | ナノ




「おいファラオ。電話」

俺は目を瞬いた。
何故って、俺の弟がノックも無しに人が入浴中の風呂のドアを全開に開け放ち憮然と言い放ってくれたからだ。
お前、これ俺相手だからまだいいけど…。いつもファラオに女取られた!と一方的に喧嘩を吹っかけられていたが、こいつ絶対実際に彼女出来ても一週間以内で別れるんだろうな…甘やかし過ぎたかな…。
シャワーを止め、 真っ裸の兄に真顔で携帯を突き出して来る弟を呆れた顔で見る。

「見ての通り風呂中だからフィンクス受けといて」
「何でオレがヒソカと会話しなきゃなんねぇんだよ」
「え、ヒソカ君?よく無視せず報せに来たなお前」
「ずっと鳴ってて煩ぇんだよ。携帯壊していいなら今すぐ壊すぞコラ」
「あー、はいはいごめんごめん。貸して」

どうせたぶん飯のお誘いだから相手がヒソカ君だろうとフィンクスが出ても何ら問題は無いんだが、フィンクスが嫌だろうから仕方ない。
ん?いや待てよ?飯のお誘いなら俺が風呂中ずっと鳴らさないか。メールでも入れておけば済むもんな。あれ、何だろう。俺とヒソカ君、だいたい飯の話しかしないんだよな…全然思い当たる節がねぇ。

「ヒソカ君?ごめん風呂中でさ、何か急用?」
『うん。ファラオ、今からボクとハンター試験受けに行こうよ
「は?」

髪から頬へ落ちた水滴を手の甲でぐいと拭う。
ハンターシケン?って言ったら…アレだ、わりと難関らしい、犯罪してもそれなりなら許される身分証明書手に入れる為の試験。だいぶ偏った知識な気がするが、間違いでも無いだろう。

「悪いけど、俺はハンターなりたくないから断る」
『へぇ、なりたくないの?ずっと昔から憧れの職業一位なのに
「お前もまともな理由でなりたいとは思えないけどな…俺の場合は、あー…まあ、興味無い」

家の中での会話はフィンクスに聞かれていると思っていい。だから本当の理由は言わず、適当に流した。

本当の理由は、俺は"ハンター"という誰もが憧れるその肩書きが心底欲しくなかったからだ。頼まれたって要らない。
多少ボディガードとして名が売れているとはいえ、俺は正式には幻影旅団でさえない。肩書きが無いことがいつか有利に働く可能性があるのなら、それがどれだけ微々たるものでも俺は肩書きが無い自分を自ら捨てる気は無かった。
そんな、たったそれだけの理由が俺にはとても大切だった。

『フィンクスに行くなとでも言われた?』
「……お前、俺達の事なんだと思ってるんだよ」

俺とフィンクス、そんな甘えられる程歳離れてねぇし。ましてやその言い方じゃまるで、

『あれ、恋人じゃなかったっけ?』

電話口からそんな言葉が届くか否かで、風呂場のドアが破壊された。
待ってフィンクス、落ち着いて。俺そろそろ寒いんだって。湯冷めしてるんだって。風呂に浸かりたいんだって。

「……代われ」
「やだよ。フィンクスが話しても言い負かされて余計苛立って携帯壊される未来しか見えねぇ。俺携帯壊されたら仕事の連絡困るんだよ」
「あ゛?!上等だ、先にテメェを壊してやろうか?!」
「事実だろ!って、おい待て暴れんな!俺裸なんだよ、ッこの!あぁあしゃらくせぇ!!『塵塵確固魑魅魍魎(アーミーキリングループ)』!!」

俺の念能力発動により、特別狭くは無いとは言っても一般並の広さの浴室を魑魅魍魎が埋め尽くした。
俺の具現化する魑魅魍魎は、全て同じ形をしていない。基本フォルムは身長が約三十センチのホラーで化け物チックな小鬼なのだが、肌の色も体毛の量も違うし、目の数も一つ目二つ目三つ目に四つ目ととにかくバリエーションにとんでいる。
ので、こう密集されると…結構目に痛い。撹乱には優秀な子達だ。しかも頭と体を切り離されない限りはゾンビのように俺の命令を聞き今回の場合は全力で足止めしてくれるので、中々に逃走向きの能力でもあったりする。

「そこの小鬼ちゃん達、パンツとズボンだけでいいから持って!そう!!ありがとう!!」

俺はタオルを辛うじて腰に巻き、パンツを持って来てくれた小鬼ちゃんとズボンを持って来てくれた小鬼ちゃんを両脇に抱えると、携帯片手に一切の躊躇無くリビングの窓をぶち割り外に飛び降りた。
尚、俺達の家はマンションの十階である。絶してるとはいえ目立ちまくるだろうから見られちゃうかもな…ごめんな、運悪く見えちゃった人。やりたくて公然猥褻したんじゃねぇから許して。頼む。

「ヒソカ君、そんな訳で取り込み中だから切るな!……ん?」

携帯に向かって矢継ぎ早に話し掛け、通話を切ろうとした時俺は違和感に気づき携帯を見た。

液晶画面に盛大なヒビが入っていた。

えっ、いつ?

操作してみるも、一切動かない。
耳に当ててみたが何も聞こえない。
当然通話は既に切れている模様。

……。

「俺がタオル一枚でまで逃げた意味は?!」



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