クリアランス | ナノ




「ごめん、ちょっとメール来たから待ってもらえる?」

闘技場での試合開始すぐ、約三秒経過ぐらいか?俺はそんな対戦真っ最中に携帯をポケットから取り出し、掌を相手に向けて堂々と待ったをかけた。
場内が困惑し試合相手のこめかみにもわかりやすく青筋が浮かんでいるが、俺はそれらを無視して携帯を操作する。
勘違いしないで頂きたいのだが、俺だってどうでもいい相手からのメールならこんな誠意ゼロで無駄に相手を怒らせるような真似はしない。俺はスマートなのが好きだ。
でもほら、クロロさんからだから。これはすぐに見なきゃでしょ。

「ははー…成る程、事前連絡有難いね」

来たのは蜘蛛としての仕事の手伝いの連絡だったわけだが、近々というやや曖昧な内容だ。
しかし、俺が小鬼ちゃん達を多く具現化するには俺が自分の手で殺した数を増やさなければならない。よってクロロさんは俺を使いたい大きな戦闘やらの前には事前連絡をくれたりする。
要するに、なんかデカい仕事がある訳だ。それまでにいっぱい殺さなくちゃなぁ。疲れる、疲れる。

「っざけやがってぇえええ!!」

俺が今後の予定を噛みしめていると、対戦相手がいきなりキレて殴り掛かって来た。その拳に硬で集められたオーラの感じを見るに強化系っぽい。てか硬使えるなら此処では強い方の奴なのかも。ふむ。

「じゃ、真っ向勝負って事で」

俺は具現化系に有るまじき判断と行動だが、にっと笑い自分も硬で集めたオーラで相手の向かって来る拳に向けて殴り掛かった。
助走をつけ、既に俺の身体十センチまで迫っていた強化系の相手の全力パンチと、腕もほぼ動かせず初動速に近い具現化系の俺のへなちょこパンチ。勝敗なんて目に見えてる。
指、手、腕と骨がひしゃげて折れ曲がり血が飛ぶ。

「ぃ、ひぎゃ!て、てめ、んな成りで強化け…っ?!」

俺は利き腕が壊れてしまった哀れな対戦相手を見下ろし、肩を竦めた。さっきの話の大前提。そもそも格が違うからね。
こちとら天下のA級賞金首のお兄ちゃんと兄貴分やってるんですよ。あ、クロロさん以外ね。

「悪いけど、腕力(これ)はただの兄弟喧嘩の副産物だよ。俺、単純馬鹿じゃねぇから」

俺はヒソカ君の系統占いに感化されてるのが否めない発言をしながら笑顔を浮かべ、倒れている対戦相手の顔の横に足を下ろした。
リングに亀裂が入り、割れる。対戦相手が小さく悲鳴を上げた。

「で、まいったは?俺あんまり有名になりたくないからさぁ、めくるめく大量殺人の日々は明日からの予定だったんだけど…第一号なりたい?此処確か殺人お咎め無しだったよね?」
「参りました!!」
「はい、いい返事」

案の定弱い者いじめっぽい試合だったなぁ、と俺は微妙な気持ちで審判から俺の勝利宣言が出た直後にリングを後にした。
やっぱり発は使わなかった。使いたくなかったから良かったけど。…さて、仕事行くか。
俺は真っ直ぐに闘技場を出た。そこで、さっきまでは観客席に居たはずなのにわざわざ先回りしてくれていたらしいヒソカ君と遭遇する。

「もう行くの?」
「おう、ヒソカ君。約束は守ったからな」

予定の仕事時間まではまだ多少余裕はあるものの、俺は早め早めに行動したい性分だ。

「そう。なら次会う時は戦おうね
「絶対ぇやだ」

俺は舌を出し、子供のようにあっかんべーしてやった。口約束でもしてなるものか。
じゃあ別れの挨拶でも、と思った所で俺の携帯が鳴った。俺からの気持ちは浅くとも俺は知り合い友人が多い方だから珍しい話じゃないが、電話の着信音だしもしかしたらこれから行く仕事先からかもと思い、ヒソカ君に断り携帯を取り出す。

「…ん?フィンクスだ。何だろ。ちょっと失礼、話してみるわ」

俺は携帯に表示された弟の名前に不思議に思いつつ、携帯を耳にあてる。

「どうした、フィンクス?」
『…ファラオ、洗濯機から泡が止まらねぇ』
「……は?…お前、洗剤どれぐらい入れた?」
『洗剤のやつ逆さにしたけど』
「はぁ?!いや、フィンクス、ちょっと待て!お前今何歳だよ?!」
『知らねぇよ!』
「俺も知らねぇけど最低でも二十歳は越えてるだろ?!冷蔵庫に掃除機、レンジに続いてお前…っ!洗濯機ぐらいまともに使えろよ!ふざけてんのか?!むしろわかんねぇなら触んなよ!何で俺の帰りも待てなかったんだよ?!」

ああもう!お前が洗濯機使えねぇような大人だろうが、誰も萌えねぇんだよ!!泡々と溢れ出した洗濯機にあたふたして困って敬愛するお兄様に電話して来るような可愛げがあっても、ちょっとしか萌えねぇんだよ!!

『うっせぇな!お前が洗濯しねぇで行ったから洗濯物片付けて驚かせてやろうとしたんだよ!!』
「許すわ馬鹿!!すぐ帰るから待っとけ!後、さっきからゴウンゴウン音するんだがちゃんと洗濯機のスイッチ切っとけよ!」

俺は終始大声を上げさせられたアホな弟との通話を切り、小さく息を吐いて心を落ち着かせてからくるりとヒソカ君に向き直った。

「ってわけで、悪いが帰るわ」
「ファラオの今の家、ヨークシンって言ってなかった?これから帰ったら仕事間に合わなくならない?」
「多少信頼落ちても、仕事なんて趣味だし実際わりとどうでもいい」

責任感のある大人相手なら眉間にシワを寄せながら説教されるだろう事を平然と口にすると、ヒソカ君はやれやれとでも言いたげな呆れた表情をしていた。
え?ヒソカ君、まさか俺に説教するのか?一度受けた仕事はちゃんと最後までやり遂げろって?ヒソカ君が…?

「ファラオって本当にブラコンなんだね
「んなわけねぇだろ」

何言ってんだお前とヒソカ君を見たが、この埋め合わせは今度でいいから帰りなよ、と若干怖い事を言いながら煙に巻くようにあしらわれた。
埋め合わせって、もう用終わって別れるはずなのにヒソカ君の予定ではまだ俺と居る気だったんだろうか。本当なら仕事先まで付いて来る予定を勝手に組み上げてたんだったり?何それ怖っ。

だがそんな恐怖より、俺達の家が少しでも大変な事になる前に俺は家に帰らなければならない。コインロッカーとか手頃な手段が浮かばず、自分でやろうとして結局俺をさらに徒労させる馬鹿な子程かわいい弟も俺の帰りを待ってるしな!



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