クリアランス | ナノ




翌日、今日一試合だけしたらとっとと仕事に行こうと思っている俺は受付をしていて初めて気づいた。
まったく聞き流していたし死んだら自己責任みたいな誓約書にも昨日の内に半ば無意識にサインしてしまったみたいなんだが、どうやら二百階からは念能力者御用達階層らしい。俺はヒソカ君効果で絡まれなかったが、本来なら新人狩りの洗礼みたいなのがよくあるらしい。

「正直、この程度のレベルなら発使わなくても勝てるんだけどなぁ」

ヒソカ君の試合相手はまだそこそこの強さだったけど、大多数の二百階層の連中は堅も硬も使えないような低レベルっぽい。

「じゃあボクとヤろうよ
「そんな選択肢はねぇよ」

後ろから肩を掴んで妖し気な笑みを浮かべて来たヒソカ君にきっぱりと拒否の意を示す。今日までの闘士生活とはいえヒソカ君と戦ったりしたら名前残りそうだろうが。
幸い、ヒソカ君の戦い方は蜘蛛の手伝い中に一度、それから手加減見え見えパフォーマンス増し増しだったとはいえ昨日の試合で二度見た。無駄な戦いは避けたい。無駄な、戦いは、な。

「ま、テキトーな奴とテキトーに戦うわ」

ひらひらっと後ろ手を振りエレベーターに乗ろうとした所で、エレベーター前に昨日見た、確かヒソカ君と一緒にハンター試験を受けたらしい少年達を見つけた。

「おっはよー。君達名前何て言うの?」

言ってから凄くうざったいナンパみたいな声掛けをしてしまったと若干気まずくなったが、発言は取り消せないのでせめて笑顔で、深い意味は無いんですよー何となく聞いただけですよーとアピールする。

「ヒソカの知り合いに名乗る名前なんて、」
「オレ、ゴン!」
「おい!」

黒髪の子はきょとんと銀髪の子を見る。性格いっそ真逆っぽいし育った環境も全然違いそうなのに、どんな運命の交わりで出会ったんだか。…ああ、ハンター試験か。本当に混沌としてるんだな、あれ。

「俺はファラオ。ヒソカ君とは限りなくメシ友に近いお友達。戦闘狂でも変態でもねぇから名前ぐらいは名乗ろうぜ?」
「……キルア」

ツンと視線を合わせてくれる事も無く不機嫌そうに答えたキルア君は猫のようだ。ついでにゴン君は犬っぽい。
けどヒソカ君が気に入ってる青い果実とやら認定みたいだから、そのうち狼と虎になるんだろうね。ま、俺には関係無いけど。

「ところで不本意ながら会話の内容がちらっと聞こえたんだが、君達九月にヨークシン行くの?」
「だったら?」
「いや俺の家ヨークシンにあるんだよね。しかも八月からは仕事先もヨークシン」
「へぇ、だったら偶然また会えるかもね!お仕事って何してるの?」
「お偉いさんのボディガード」

俺は無意味に嘘を吐くような人間では無いので、正直に自分の仕事を答えた。嘘を吐かないからって、わざわざ偶に幻影旅団の手伝いもしてるなんて言わなくてもいい墓穴掘りかねない追加情報は与えないけど。
追加情報はどうでもいい無意味なものに限る。こんな風に。

「それはいいんだけどさ、ボディガードやるにあたって中々家に帰れない日もありそうなんだよ。俺弟が居るんだけどそいつがまともに俺の帰りを待てるかもう心配で心配で…」
「ブラコンかよ」
「前に一週間留守にした時は、電子レンジと冷蔵庫と掃除機が再起不能にされてたんだよ。アイツ、ゴミ山の生活は難なくこなせるんだけど文明の利器が使えなくて…しかも上手く使えないとアイツはまたすぐキレて壊すから…」
「ちゃんと躾けりゃいいだろ」
「力はあっちのが強いんだよね…わかりやすく脳筋なの」

俺は肩を落として溜め息を吐いた。情報としてはどうでもいい部類とはいえ、悩みは切実である。

「ファラオは、弟さんの事大好きなんだね!」

ゴン君が突然笑顔で宣った。
俺は突然のそれに、いつものように否定出来ずぽかんと彼を見た。ゴン君はそんな俺の反応に何でそう思ったのか疑問に思っているとでも考えたのか、続けて理由を話し出す。

「ファラオ、弟さんの話すっごく楽しそうにしてたから」
「えー…いやー…そりゃ、一緒に居て楽しくない訳ではねぇけど…」

何故か俺がしどろもどろになった。
いや、何故かはわかっている。ゴン君の目があまりにも真っ直ぐで、俺のフィンクスへの感情が普通じゃない事を見透かされたような気分になったからだ。あまりにも深く暗くどろどろとしたこの愛は、容易くブラコンやら大好きやらそんな言葉で表してはいっそ誤解されてしまうから、俺はいつもそれに答えないだけだ。
例えばもし、"あの時"に俺が会っていたのがこの子だったとしたら、俺の弟がこの子だったとしたら、俺は今大層立派な人間と呼ばれていた事だろう。

「…うぅん、調子狂うな君は。じゃあ俺さっきのバトル申請今すぐにして、これから試合だから。ゴン君、キルア君、またね」

俺は自分で考えた可能性を一笑するように、完璧な作り笑顔で彼等に背を向けた。
立派な人間になりたかったんなら、元から俺は流星街になんぞ行かなかった。俺は自らの意思で選び、捨ててもらった。
フィンクスが俺の弟になったのはただの偶然で、だけど偶然とは運命だ。



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