クリアランス | ナノ




ついこの前まで二度目のハンター試験を受けていたが、見事受かったらしくめでたくハンターとなったヒソカ君にランチに誘われたので、俺ははるばる甲斐甲斐しくも天空闘技場近くのレストランまで来ていた。
ま、本当は仕事の都合で近くに来てたから都合良かっただけなんですけど。

待ち合わせのレストラン前で、先に着いていたらしい化粧無しだと怪しげな雰囲気なだけのただのイケメンバージョンヒソカ君を見つけて片手を上げる。ヒソカ君も手を上げ返して応えてくれた。

「よう、ヒソカ君。ハンター試験合格おめでとー」
「ありがとう、ファラオも受ければ良かったのに
「俺はいいの」

俺はひらひらと手を振り、試験前にも誘われたそれをまた軽く拒絶した。
それに俺の中でハンター試験は今や、タオル一枚で十階から飛び降り携帯を大破させられた元凶のような忌むべきものという認識だ。新しい携帯は漸く手に馴染んで来た。
尚、もう一つの元凶であるヒソカ君は後日一発殴ったので既に許してます。殴ったのにヒソカ君妖しく笑ってて、何故か俺の方がダメージ受けんだがね。

「それはそうと此処のフレンチランチ、俺も目付けてたんだよ。さっすが。わかってる!」
「ファラオは好きそうだと思ったんだよね
「超好き!」
「じゃあボクのお願い聞いてくれる?」
「えっ」

俺は目の前の三ヶ月予約待ちのフレンチレストランを見た。こ、ここまで来て帰らされるとか…なんて非道なお預け…俺、ネットでメニュー調べて頼みたいフードもドリンクも決めて来たのに…。

「も、ものによる」
「ファラオも天空闘技場出ようよ
「天空闘技場ォ?」

俺は知識でだけ知っている、今ヒソカ君が選手として出場しているらしいそこを思い浮かべ、逡巡した。
俺は金には興味が無い。ボディガードの仕事はほとんど暇潰しの趣味としてやっている。それに、天空闘技場って名前売れちゃいそうで嫌なんだよな。肩書きが出来かねない。
…でも…フレンチ…エドシック・モノポール・ゴールドトップのシャンパンを飲みながら、仔羊の背肉オイル焼きを食べる予定が…既に俺の中に…。

「明後日は仕事入ってるから、明日の夜までならいいよ」

二日で名前なんてそうそう売れまい。
俺はあっさりと陥落して、意気揚々とレストランの中に入った。外装もシンプルな渋みがあって良かったが、内装の所々原色を取り入れた小物使いも美しい。これはやはり料理も期待できる。

「というか、俺そんなにタイマン強くないって言ったのにまだ俺の戦闘が見たいのか。別に面白くないぞ?」
「でも力だけでもフィンクスといい勝負なんだろ?」
「ん?ああ、もしかして前にシャル君と話してたの聞いてた?俺自身の力強くても、戦闘にはちょっと応用効くぐらいで意味ねぇよ」

念は六性図で強化系を一番上、特質系を一番下になるように考えた時、本人の肉体の強さは上に行く程重要で戦闘の勝敗に影響し、逆に下に行く程重要になるのは頭の回転だと俺は考えている。もちろんどちらも出来るに越した事は無いが。
だからその理論で行くと、俺の筋トレは努力の方向性をかなり間違えていると言えるだろう。

絶え間無く話しながら、店員に案内されるままに予約されていた席に着いた。店員からの簡単な説明を聞く限り予約されていたランチは既にコースのようだが、俺はメニューを開きもせず、目的の一つエドシック・モノポール・ゴールドトップのシャンパンを注文した。そんな俺にヒソカ君も笑いながら同じものにしていた。

と、店員が去った瞬間、ヒソカ君は獰猛な獣のような目をした。その纏うオーラも、ぞわりとした粘着質な邪悪と悦楽を孕む。

「でも、前に言ってたアレだけがキミの能力じゃないんだろ?見たいなぁ…ファラオの切り札

ため息を吐く。ま、そりゃそう思うよね。正解。
そんな内心はもちろん明かす事なく、俺はポーカーフェイスを貫いた。確信してるだろうから明示はしなくても隠す気も無いのだが。

「仮にそうだとして、俺がそれを見せる時はお前か俺が死ぬ時だろうから…俺は見せたくないね。好んでまで友人を殺したい程歪んでねぇんだ、お前と違って」

やや芝居がかったニヒルな笑みを浮かべて見せれば、ヒソカ君も獰猛な笑みで応える。
だが次の瞬間には、俺とヒソカ君は含みのある空気を消して顔を見合わせて笑った。その心中はお互いさえ知る由もない。

尚、その後俺とヒソカ君はとても和やかにフレンチランチに舌鼓を打ちました。ご飯は美味しく食べるものです。



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