人間になって竹刀片手に一年ろ組の子達を探して第六感に頼り走っていると、突如背中をぞくりと嫌な予感が駆け巡った。
この前の一年生の子の影響は根強く、一瞬心霊的な何かを想像こそしたが、俺は冷静に走るのをやめその場から飛び退いた。
直後、俺がさっきまで居た場所に手裏剣が突き刺さる。
その飛んで来た位置から目算し、瞬時に飛び上がりそこに竹刀を打ち付けるがギリギリ避けられた。
俺は相手を睨みつける為初めて相手を視認し、驚く。
「思っていた以上にお強いんですね」
さっきまで攻撃し合っていた相手に向けたものとは思えないような笑みに面食らった。何より――彼女は俺が初めて接触する、くのたまだった。
黒髪をポニーテールにした、可愛い子だがなんかよく居る感じのちょっと派手めに化粧した子…なんだが、何だろうこの違和感は。よく居る…よな?こういう子?うーん?
まぁいいや。それより攻撃された事の方が問題だ。
「…くのたまの君が、俺に何か恨みでも?」
「あら、学園に不法侵入した間者を攻撃するのは普通の話ですよ?」
…な、何という正論!
最近妙に俺に甘い人達からしか俺への認識聞いてなかったから新鮮!鉢屋のアレもまた補正パワーでまともじゃないし!
君は正しい!
「一応学園長の許可は得てるぞ?」
「そうですか、それは失礼致しました。天女様の件ですか?」
「あー、まぁそんなとこ」
んー…話聞く限り、そんな悪い子じゃないかな?モッチーの事も好意も嫌悪も無さそうだし、無関心っぽい?
まだわからんが、モッチーもくのたまの話を特別出した事ないし、くのたまのモッチーへの認識ってそんな感じなのかもなぁ。
「天女様を始末なされるおつもりですか?」
「は?…君は、始末して欲しいのか?」
…これは、嫌悪感無しと判断するには早計過ぎたか?
「いえ、それで学園の異常が戻るとは限りませんから。私個人の意見を言うなら、隔離するべきですね。これ以上被害が広まったら笑えません」
…ああ、マジで無関心って言うか….これはモッチーを人間扱いしてねぇんだな。
いや、当たり前か?客観的に見れば、空から降って来て妖術まがいの力で学園掌握してんだもんな。
でも、
「基本的人権って知ってる?」
本人悪くねぇし、冤罪で人間を隔離するなんておかしいだろうが。この子の考え方はまさに忍者やくノ一らしくて…やっぱり俺はその冷徹な考え方が好きになれない。
くのたまはそんな俺をきょとんと見て、何故か笑い出した。
「ふふ…知ってますよ?では逆に問いますけどーー天女様は人間で、お兄さんは人間ですか?」
…何で、そんな普通当たり前な事を、聞く?
俺は湯飲みだ。だから…その質問にイエスとは言えない。
「モッチーは、天女は人間だ」
「それって先入観でしょう?」
「じゃあ君は自分が人間だって言い切れるのか?」
はいって言ったら、あれだ。胡蝶の夢の話してやる。時間が過ぎようとだ。
だが、俺の予想はあっさりと外れる。
「どうでしょうね」
くのたまのその言い方が…俺には適当にあしらおうとしてるとかには聞こえなくて、本当に本人もはいと即答出来ないからな気がしてーー俺は何も言えなかった。
「…俺もう行くけど、俺の名前八代恒希だからさ、お兄さんはやめてな」
「わかりました、私は浅実智奈です。君はやめてくださいね」
俺は帰路を走りながら浅実さんに、ついて考えていた。
好きになれないタイプだ。別に嫌いでもないけどね。