今日は天気がいい。気分も良い。ああ…気分が良いのは元からだった。だって私は自分が幸せになれると知っているから。

「ミドルゲーム…ってとこかしら」

此処まで、全部私の読み通り。というか、きっと絶対最後までみんな私の掌の上。
だって、私負けたこと無いもの。
一手先、目先の未来に興味はない。要するに、最後に自分が笑えるよう駒を動かす。カリキュレイトは戦術の基本でしょう?

頭が良い人間は負けないのよ。
負ける類の人間は最初から決まってるの。負ける人間ってのは死ぬまで負け続けるのよ。


「智奈、みどるげぇむって?」

首を傾げた同室のくのたまで友人である彼女に、私はいつもの優しい笑顔で答えた。

「中盤戦。ほら、サヨコ次打って」
「えぇえ、難しいよちぇすー…だいたい、ちぇすって聞いたこと無いんだけど、智奈こんなの何処で覚えてきたの?」

訝しげに聞いてきたサヨコに、そんなの聞いてどうするのかしらと嘲りつつも顔はやっぱり優しい笑顔で目を細めた。

「私の故郷で」

くだらないところだっだけれど、チェスは好きだった。
此方に来てからも、手先が特別器用でも無い私がわざわざ二組のチェスの駒を木彫りで作るぐらいには。


「故郷?山城だっけ…?」
「んー、まぁね」

適当に濁して、外に視線を移す。
サヨコともうチェスは無理ね、つまらない。あの上手かったくのたまの先輩ともう一度打ちたいわ。まぁ、それでも私よりはやっぱり弱かったけど。

そう思いを馳せていたら、サヨコが穴が開きそうなほどじっと此方を見つめてきた。私は引き気味に視線で何か用かと聞いた。

「智奈って実は何処かのお姫様だったりする?」
「ふふ、何よ急に」

神妙な顔して聞いてきた内容に、私は笑った。意味がわからないけど、そう言われて悪い気はしない。

「だって立派な氏があるし、同年代の皆より落ち着いてるしそれにー、」

褒められるのは好き。称えられるのも好き。人の上に立つのが好き。それが人に評価される人間の上なら最高。
私は別に、特別好きな人なんて居ない。居ない。
だから、皆私を好きになればいい。私をただ崇めてるなら、私も優しくしてあげる。
良い子にしてるなら、正当な報酬をあげるわ。


「智奈って、天女様と何となく雰囲気似てるよね!」



…は?

空気が凍る。
それに気づかず、尚も天女様って変に好かれてるけど実際可愛いよねー。天女ってのも納得!なんて言い募る馬鹿に、私は自分の着物の合わせ目に右手を突っ込み、そこから取り出した半刻前に研いだばかりのくないを無表情で放った。
馬鹿の頬に一線の傷が出来、そこからゆっくりと血が流れ出す。

「え、ど、どうしたの智奈怒って、」
「二度とそんなふざけたこと口にしないで」

冷や汗を流し慌てる馬鹿に、私は低い声で続けた。

「あんな男侍らせて馬鹿みたいに笑ってる子、」


大っ嫌いなのよ。


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