今日は三木ヱ門君の補正を解くべく人間になった俺ですが、すっかり人間姿にも慣れて来てしまったものです。
これ、全部解決してまた人間になれないただの湯飲みに戻った後弊害出そうだわ。
「さて、三木ヱ門君はっと」
この辺りのはずなんだけど、と何処となく見覚えのある確か四年長屋周辺をうろうろしていると、久しぶりに滝君を見つけた。相変わらずの俺好みのイケメンだ。
と思っていたが、なんか滝君怒っていらっしゃる…?あ、滝君の影に隠れて丁度見えなかったけどもう一人誰か居るっぽい。喧嘩?
「仲裁行くべきか、」
な…?
言っている途中で、仲裁に行くまでもなく滝君がぷりぷりと怒りながら去って行く中、俺は滝君と言い争っていた人物を初めて視界に映した。
その瞬間――時間制限とか、やるべき事とか、そんな思考を全て放棄する。そうして恐らく数秒ただ固まっていた。
少しだけ我に帰った頃、俺は素早くその少年に近づき驚いた様子の少年をまた数秒見つめて、やっと口を開く。
「あ、の…君、名前は?」
「は?…田村三木ヱ門ですけど」
それがどうしたとばかりに俺を見てくる少年の、綺麗な髪が揺れる。
どくん。
「田村…三木ヱ門…?」
「…僕の事知ってるんですか?」
知らない。
知らない…はずなのに何も言えない。
何より、この酷い焦燥と動悸は何だ。何で視界が歪む。何でおれは泣きそうになってんだよ。意味がわからない。
「っ恒希さん…!」
聞き覚えのある声は伊作さんのもので、ああ助かったと俺が田村、君に襲われているとでも思ったのか酷く慌てた様子な伊作さんを安心させるよう笑顔を作って振り返り――
その姿を視界に収めた瞬間、さっき田村君に俺が何を感じたのか否応なくわかってしまい、それが信じられなくて笑顔が凍った。
「…恒希、さん?」
「言っておきますけど、僕は何もしてませんよ」
そうだね、君は何もしていない。変なのは俺だ。お前は何も、悪くない。
俺は自分で作っておきながら歪なものとなっているのがわかる笑顔で二人を見た。
「俺、用事出来た。バイバイ、伊作君…田村、君」
引き留める伊作さんの声も、田村君の訝しげな視線も気にしていられない状態の俺は、全速力で学園を駆け抜けた。
人の居ない場所。俺の第六感、人の居ない場所を探せ。
闇雲に走って着いた人気の無い場所で、俺は地面に叫んだ。
「なんだよ…っ?!」
何だ何だ何だこの感情?!知ってる、俺はこれ知ってる!知らないのに、何で知ってるなんて感じるんだよ?!
それは俺が伊作さんを愛する感情と似ていた。だけど、
「ねぇ恒希、世界で一番綺麗なものって何か、知ってる?」
一瞬、女の子が見えた。茶色い綺麗なストレートの髪を風に靡かせ、勝ち気な笑みを浮かべた可愛くて、何より凄く綺麗な人。
俺は――知ってる、彼女の事。記憶は知らないと言うけれど、俺は確かに知っていた。
知らないけど、忘れられるわけがない。
「 」
名前を口に出そうとして、わからなくて、眩んだ。