湯飲み歴云十年、留三郎さんに指さされ彼の所有物になったあの日から十年と少し。
俺は自分の主人、留三郎さんが大好きである。此処でその好きなところを語り出すとそれだけでこの話は終わるので割愛する。

そんな俺の御主人留三郎さん、口にこそ出さないが最近寂しそうだ。勿論俺にも原因はわかっている。
留三郎さんの同室の善法寺君に好きな女が出来たのだそうだ。
いやいや、それだけなら留三郎さんも素直に応援したのだが、その相手って奴が問題で。

彼女の名を天女様。学園の忍たまの優に9割が彼女を恋慕している、らしい。
…あり得ねぇよね。でもまぁ、いいんじゃない?恋するのは良いことだよ、うん。愛とは世界で一番素晴らしい感情なんだから。

「…はぁ」

って、あれ?留三郎さん?溜め息?幸せ逃げるよ?

「あ゛ーっ!」

?!
な、何?!何で急にそんな鬱憤晴らすように叫ぶんですか?!今此処に居るのは留三郎さんと…俺だけ。つまり俺のせいか?!いやいや俺はただ今日も元気に一寸も動かず湯飲みやってるだけですよ?!

「…つまんねぇ」

へ?

つ、つまんない…?

あ。あ、あ、そっか。いつも一緒に居た六年生達、最近じゃ俺誰も見てない。それはつまり、この部屋に来てないってことで。それは、つまり、

「集団幻術とか、笑えねぇだろ」

留三郎さんは決意を決めたような顔で愛用武器である五槍をその手に持つと、部屋を出ていった。

…ったく、しまったな、俺としたことが。事態を楽観視し過ぎていたらしい。
天女が幻術とかいう反則技を使ったとしたら、天女は学園の敵。留三郎さんの敵だ。だが、善法寺君達を含め忍たまの9割は天女の味方。=9割敵の四面楚歌。
留三郎さんが決意したのはそういう事。一歩間違えれば、今留三郎さんは――んな事、誰が許すかよ。

俺は願った。

食器の神様に会った俺は一分間人間に変身する力を授かった。

俺は留三郎さんの着物を借りて着、走った。



「――間一髪、かな?」

後ろから留三郎さんの首を一直線に狙ったくないに、俺は留三郎さんを抱えて飛び退き、口角を上げた。
…ああ、留三郎さん怪我してんじゃねぇか。肩の出血、結構酷ぇな。早く手当てに行かせてあげたい。

「は?な…アンタ、誰だよ」
「通りすがりの救世主」

俺の腕の中で、留三郎さんは何が起こったのか理解したのだろう瞬間、警戒した目で俺を射ぬいた。
俺はちょっと傷ついた素振りを見せないよう、曖昧で格好つけた言葉を吐き、留三郎さんを敵意を向ける奴等から少し離れた場所に下ろした。
俺が初めて留三郎さんと話せた瞬間だってのに、周りのアイツ等、気に食わねぇな。何で、簡単に留三郎さんを裏切ってんだかなぁ?留三郎さん傷つけやがって。

俺は確かに、ただの湯飲み。

「でも、君の絶対的な味方だ」

ぽかんと俺を見る留三郎さんは訳がわかっていなさそうだったが、でもこの俺の忍者の卵からしてみれば根拠も何も無い信用出来ないはずの言葉に、何故か安堵したように力を抜いた。
そんな彼に、俺は微笑みかける。

「待ってて、すぐ終わらせる」

かつての仲間とさえ刃を交える覚悟をした留三郎さん。貴方の想いは俺が遂げる。
だから留三郎さん、貴方はもう何も心配しなくていいよ。


一周年お礼フリリク。とみぃ様へ贈呈



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