あ、そうだ思い出した。鉢屋マジ次会ったらぶっ殺すって話だ。
組頭さんが自分の雇われているという城に帰って、俺も伊作さんに部屋に運んでもらい、素晴らしき日常伊作さんの観察に精を出している時、ふと今日人間に変身してすぐの時何があったのかを思い出した。
…鉢屋かー、鉢屋ねぇ…てか、今気付いたけど俺五年とは全然会ってねぇや。つまりあれだ。五年は逆ハー補正率が高い。

いやいや、そんなあっちも此方も考えてたって仕方あるまい。伏木蔵君の話も気になるがそれも後回し。
今は潮江!一点集中!

「…」

…。

「…」

……うん、それでさ伊作さん、そろそろ突っ込んでいいですか?

何でさっきから俺を凝視?!照れるっ!焦るっ!居たたまれないですっ!

「…はぁ」

そしてため息っ!何これ?!無性に謝りたくなる!今凄く俺が悪い気分になった…!すみません!湯飲みですみません!


「おう、伊作ただい…どうした、負の空気出してんぞ」
「留さぁあああん!だって…!ちょっと聞いてよっ!」
「いや、悪ぃ。見なかった事にするわ。聞きたくねぇ。適当に用具の仕事してくる」
「やだ、だめ、逃がさない」

帰ってきて早々酷いこと言って出ていこうとする食満の脚を伊作さんは抱き締めるようにしっかり掴んだ。
…やだって!だめって!ちょっと聞きました?!俺伊作さんにそんな事言われようもんなら、無言で10秒ぐらい下向いて悶絶するわ!一分の時間制限の六分の一消費する価値あるわ!
てか、脚っ!脚抱き締めるって…っ!あれ、伊作さんやっぱり好きな人食満?俺もうよくわかんねぇ!

「…」
「…」
「…はぁ、わかった。聞く。聞くから離せ。座らせろ」
「やったー!」

無言で見つめ合った後、食満は折れたようにため息を吐いた。
そんな事より伊作さんがかわい…あ、はいすみません。そろそろ自重します。

二人は向かい合って座り、片やにこにこ、片や呆れ顔。

「聞いてよー!今日雑渡さん恒希さんと会ったんだって?!僕は会ってないのに!僕は会ってないのに!」
「聞いてるから二回言うな」
「てか、恒希さんって狡いと思わない?!いっつも僕が危ない場面に現れてさらっと救ったと思ったら居なくなっちゃうんだよ?!僕に、僕にどうしろと…?!」
「伊作、とりあえず落ち着いてくれ」

早口に捲し立てる伊作さんに、俺は疑問符を飛ばす。
すみま、せん…?えっと、ああ、俺いつの間にか助けて事情説明せずドロンしちゃうから、残された伊作さんは混乱するって話か。
確かに申し訳ないな。でも時間が…すみません、どうしようもないです。

伊作さんは辟易したような食満の言葉に、前のめりになった身体を戻し、そのまま後ろに倒れるように寝そべった。

「…僕達さ、卒業まで後一年もないじゃない?」
「そうだな」
「恒希さんが忍務内容教えてくれるとは思わないし、そもそも素性から一切謎で…たまに、皆に元に戻って欲しいのは本当なのに、戻って欲しくなくなる」
「…」
「この騒ぎが終わったら、もう恒希さんには会えなくて、僕達は卒業して、もしかしたら戦場で刃を交えるかもしれないよね」

…?え、ごめん何この展開。俺と伊作さんが敵対って、実際問題絶対にありえないよ?
まぁでも、騒ぎが終息したら俺がいつまで人間に変身出来るかはわからない、か。

「その想像があまりにも現実的で、きっとそれは想像で終わらないから――ぅわ?!」

苦笑しながら口を動かしていく伊作さんに、真顔の食満が突然動いた。
俺のいつも借りてる着物が伊作さんの頭にぶわさっとかけられる。普段なら怒るところだし、俺の洗ってない着物をあぁあ伊作さんすみませんってなるところだが、伊作さんと違い食満の表情が視認出来る俺は文句を言うつもりはない。

「ちょ、何留さん?!」
「やっぱりお前は落ち着くな」
「えぇ?」
「伊作は恒希さんに会う度にきゃんきゃん煩ぇぐらいで丁度良いんだよ」
「…」

着物から半分顔を出した伊作さんは、苦笑した。
慰めるでもなくただ背中を押す食満のその言葉に、俺は、なんか、何だか、五年分の絆を見せつけられた気がした。


「――留さん、」
「ん?」
「この着物、恒希さんの匂いする」
「……お前やっぱ黙れ」

その後の会話を俺は上の空で聞いていなくて、もしもの未来を考えていた。
何で自分がそんな悲壮な想像をするのかもまだわからないままに、ただ考えていた。

誰かが哀しく笑った気がした。



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