正直に言おう。
まんまと油断していた。てか忘れてた。

天女様信者の阿呆共が、俺の様子を見るように沈黙を守っていたこと。


「だぁいせいこう」

ああ、にやにや笑うその顔に一発ぶち込みたい。



さて、怒りを抑えて何があったか簡単に説明しよう。
よっしゃ潮江の逆ハー補正でも解くぞ!と勢い込み走って部屋を出た瞬間、嫌な予感が脳内を駆け抜け停まろうとする前に部屋から出てすぐの場所に仕掛けられていた糸状の何かに足を引っ掛けた。
そこから受け身を取ろうと手をついた場所の床が抜け、強制的に角度が70度ぐらいある滑り台。
混乱しながらもとりあえず着地だけはしっかりしようと思っていたら、滑っている限りどうしようもなく縛られてしまうように張り巡らされた縄の数々。
受け身とかそれ以前の問題でゴールの冷たい床に転がった。

気づいたら生け捕り。
青い忍び装束の男がにやにや笑っていた。

「…鉢屋三郎、かな?」
「よくわかりましたね、さすがプロってところですか」

正解だったらしく、鉢屋は皮肉を言うように俺の目と鼻の先で笑ってみせた。
ちなみに、竹谷以外は顔と名前を一致させながら五年生を見たことがないにも関わらず鉢屋が鉢屋だとわかったのは、第六感による、この顔偽物だな…つまり変装名人と言われる鉢屋っぽい。という何とも曖昧な理由だ。

「八代さんって、実戦では化け物ですけど、こういう罠弱いですよね?前も綾部の遊び半分のやつに引っ掛かってたし」

コイツの敬う気の無い敬語腹立つな…。
仕方ねぇだろ、俺本当はプロ忍者じゃねぇんだから。てか、綾ちゃん?綾ちゃんの罠に俺何時かか……あれ、俺が罠にかかったのって、綾ちゃんと初対面の時だけじゃね?…今後、綾ちゃんと話し合う機会を設けねばならないようだな。

さて、制限時間残り半分。…これ、ヤバイよな。コイツの前で湯飲みに戻ったら俺を逃がした八つ当たりで壊されそうだ。いや、真実俺自身だが。

「で、目的は何だよ。手短に話せ」
「まぁまぁ、そう慌てなくても。時間はたっぷりありますから」

余裕の笑顔に、俺は本格的に自分のピンチを悟った。
ヤバい。たぶんコイツ、俺に時間が無いのわかっていやがる。理由がまさか湯飲みに戻るだとは思っていないだろうが、俺が不利になるのわかってて時間稼ぐ気だ。
伊作さんの部屋から出てすぐトラップがあったってことは、俺が毎回伊作さんの部屋から出てくるのも知られてるんだろうし…。
俺に絡まってる縄も、今の俺の力じゃどうにも出来ないぐらい強靭なやつだ。逃げられない。

「天女様に二度と近づかないって誓うなら、何とかしてあげないこともないですよ?」
「ハッ…嘘吐け」

お前は口約束で納得するようなたまじゃねぇだろ。
なんて、憎まれ口叩くはいいけど、残り時間15秒。滑って来たはずの道はすでに見当たらなく、たぶん出口が閉ざされている。


「アンタ見てるとさ…気分悪い」
「…」

急に雰囲気を変えて仄暗い目で俺を見る鉢屋に、これは時間切れ以外での死亡の恐れもあるか、と冷や汗を流した。
あー、やだな。俺痛いの嫌いなんだよ。愛してる奴からの攻撃なら許容範囲だけど、それ以外はマジで嫌。

「特にその目、気に入らない」

ゆらりと揺れた鉢屋が、くないを動けない俺の眼球目掛けて振り下ろした。

うわ、痛そう。










刃物同士がぶつかり合う音がした。

「んー…危機一髪?」

視界が黒い。てか、何かに押し付けられてる?

「な、曲者…っ!」
「はは、まぁとりあえず逃げようか。恒希クン?」

制限時間残り5秒というところ、俺はたぶんおそらく間一髪で助けられ、視界が塞がったまま乗り心地の悪い乗り物に乗せられているように運ばれた。俵担ぎされてる、のかな?

え、てか誰。そんで何処行くんだよ、ちょっと!



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