声がした。
モッチーと…えっと、あの、よく居る感じの可愛い子…ああ、あれだ。浅実さんとかいう人の声。

「だいたい、アナタの言葉を誰が信じるのよ?」

は?
俺に気づかず、モッチーを見下すように言った浅実さんに、俺は固まった。

「っ…」
「アナタのこと、皆嫌いだったじゃない。忘れた?何で此処に居るの?まだわからないの?アナタ、まだ生きてる価値あるの?」

…え、なに、あいつ。
モッチーにここまで酷いこと言える程、お前は偉いの?お前はそれ程の生きてる価値あんの?
ああ、好きになれなかった理由わかったわ。自分より下の人間を見下し、上の人間には媚びながら陥れることばっか考えてる。外見ははりぼてで、中身は虫酸が走る。気持ち悪い。

「それにね、」
「おい」
「っ…恒希、さん」

懲りずにまだ何か言い募ろうとする浅実にこれ以上我慢できず、俺は二人の前に出た。無表情で浅実に殺気を向ける。
震える声で俺を呼ぶモッチーを安心させてやりたいのは山々だが、生憎俺には時間がない。
俺の殺気に多少引きつってはいるが、浅実は笑顔のまま。その笑顔ぶち壊すまでは、俺は湯飲みに戻れないんでね。

「ちょうどよかった。アナタにも聞いてほしいことがあるの」
「へぇ?」
「その子ね、汚いのよ」
「っ!や、やめて…!それは、おねが、お願いだから、言わないで!何でもする!何でもするから!恒希さんにだけは、言わないで…っ!!」

笑顔で言った浅実に、モッチーは酷く怯えた様子で浅実の足にすがりついた。浅実はそれに笑みを強くする。

気分が悪い。

「触らないでよ、移ったらどうするの?」
「あ、あ…っごめんなさい、謝るから、だから、」
「ふふ。恒希さんはどう?知りたくない?」

浅実がモッチーを蹴り飛ばした。モッチーは床に転がり、それでも起き上がって浅実に懇願する。浅実が笑顔で俺に聞いた。

俺は笑顔を浮かべる。浅実の顔が赤らんだ。モッチーの顔が絶望に染まる。


「第一に、お前に名前呼びを許可した覚えはない」
「え?」

ああ、これはもう一分経っただろうな。俺死んだ?ッハ…….んなもん関係あるか。

「第二に、モッチーもうちょっと俺のこと信じて欲しかったなぁ」
「あ…っでも、私が汚いのは本当、だから…」
「俺は伊作君をモッチーがただの私怨で殺す、ぐらいのことしない限りモッチーのこと嫌いになんねぇよ馬鹿」
「っ…ぅ、恒希、しゃん…!」

ああ、まったく泣き顔までかわいいなモッチーは。目の前で顔歪めてるブスとは大違い。

「アナタは、何も知らないからそんなこと言えるのよ…っ!この子はねッ!」
「黙れ」

俺は笑顔で浅実の肩口を蹴り飛ばした。悲鳴を上げて床に倒れ込む浅実。
はは、女の子に暴力は振るいたくないんだけどさぁ?…大切な人傷つけられた時は例外でしょ。

「っ何す…!」
「何?自分はモッチー蹴り飛ばしたじゃん。俺が男だから手は上げないと思った?」

生憎、そこまでフェミニストに拘ってないんだよね、俺。それよりムカついちゃってさぁ?お前、人を苛立たせる天才だわ。素質あるよ。

「人が知られたくないことベラベラ話すお前より、モッチーを好きになるのなんて当たり前だろ。てか、俺の話がまだ途中。人の話はちゃんと聞こうね?」

俺は冷たい笑顔で浅実の胸倉を掴み、引き寄せた。


「第三に、俺お前のこと大っ嫌い。性格ブス過ぎて笑えるわ」

なんて言うわりに、俺は真顔だろうけどね。普段の俺って結構表情豊かだから、俺の真顔は相当怖いなんて言ってたのは前世の友達だったか。
言うだけ言って浅実を放り投げるように放した俺は、モッチーに振り返り笑顔で手を差し出した。

「行こっか、モッチー」
「っ…うん!」

モッチーは俺の手を取った。強く握り返して手を引くように先を歩く。
俺は浅実さんを知らない。モッチーの過去とかも知らない。もしかしたら、悪かったのは本当はモッチーの方だったのかもしれない。俺は知らない。でも、俺はモッチーが大切だからモッチーを護る。俺は善悪になんて最初から興味はないんだ。

俺はずっと永遠と、転生までしても変わる事なく、善い人間にはなれない。

「っアンタ達!覚えてなさい?!今に、殺してやる!殺してやるからッ!!」
「勝手に言ってろ性格ブス」

女にここまで暴言吐いたの初めてだなぁ…。


さてと…三分ってところか。汗の吹き出し方が普通じゃねぇな、まったく。
あー…伊作さん、もう会えなかったら、ごめんなさい。


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