さっきまで煩く感じていた雨の音が、遠くに感じた。
彼女――浅実智奈とまた会う、なんて考えてもみなかったから。
「何でって、決まってるでしょ?トリップしたのよ。アナタと同じね」
一見好意的に見える優しげな笑みに、懲りずに騙されかけた。
駄目、駄目だ私、馬鹿、信じるな。地獄を忘れるには、まだ時間は足りないでしょう。今でも目を閉じれば見えるでしょう。沢山の侮蔑の目と、いつも優しい微笑み――この子は、
「私、転生トリップだからアナタと違って信用あるのよ。盤上はちゃんと固めてるし、アナタみたいに分不相応な逆ハーなんて願ってないから」
「っ!私は好きで逆ハーなんてなってるんじゃない…!」
「そう、まぁどうでもいいけど」
冷たい目は私を見ているようで私なんて映していない。
表情は違っても、アナタが私に向ける瞳はいつもこうだった。それを知ったのは――あ、れ?いつ、私はそれを…知ったの?知れた、の?だって私は、嘲笑しながらなのに初めて私を恨みがましい目で、痛い程感情の込められた目で見下ろした智奈ちゃん、を、見た?でも前のあの世界で見た記憶はない。でも此方で会ったのは今が初めて。でもこの目に焼き付いた、明確な彼女の裏切りの証拠は?見たのなら、じゃあ、それはいつ――?
…落ち着、こう。
相手のペースに呑み込まれるな。彼女との思い出なんて振り返って自分で古傷抉ってどうするの。…私はもう、独りじゃないんだから。あの時と違って、本当に独りじゃないんだから。
「盤上って、何が言いたいの?」
「何って、つまりくのたまは皆私の味方ってこと。逆ハー補正で調子乗ってるみたいだけど、私がちょっと手を動かせばアナタは終わり」
私がいつ、調子に乗ったの?
私はいつだって、何処だって、小さな幸せを護る事に必死だ。調子になんて乗る暇ない。
何でアナタは、そんなに私を嫌いなの…?