先日、俺なんか生まれつき(室町時代での二度目の生から)変な力あるんじゃね?という結論に至ったけど、お前湯飲みのくせに何調子乗ってんの?馬鹿なの?死ぬの?とか聞かれたら即座に心が折れます、湯飲みです。
まぁ今はその話置いといて、約束は約束なので俺は第六感様々で潮江がいそうな方向に適当に走っていた――

ら、地面に何か紙をばらまいて一心不乱に何かを書きなぐる少年がいた。思わず足止めた。一年生は装束が模様つきの水色だからわかりやすい。
…さて、どうしよう。これは気になる。主に少年の必死で、泣きそうなのを堪えるような表情が。

「どうした?」
「…だ、誰!」
「んー…八代恒希という名の、学園でいう天女様のお友達だ」
「天女様の…?」
「ああ」

多少は警戒がとけたらしく、俺から視線を外して墨のついた筆を握りまた紙の束に向き直った少年に、なんとも言えない気持ちになる。いや、俺が言うのも難だけど、もうちょっと疑った方がいいんじゃないだろうか…?今学園、結構危険な状態だよ?間者さんほいほいだよ?
俺は実際また警戒されても困るためそんな数々の言葉を胸に押し留め、少年が何かを書いていた紙を覗き込んだ。…大量の暗号らしき文字が多々。

「字の、練習をしているんです」
「あ、そ、そうなんだ…」

これ、普通の字なのかよ。俺にはまるで読めんぞおい。俺の読解力の問題か?俺が悪いのか?
それに何故字の練習を外で、地面でやる。

「潮江、せんぱいが…」
「え、潮江?」

俺も用のある人物の名前に、これは思ったより深刻な事態なんじゃないかと気を引き締めた。
少年は下を向いたまま、決して俺を見ない。

「せんぱいが、叱らないんです」
「叱る…?」
「僕の字が汚いって、帳簿が読めないって、いつも叱ってたのにっ。叱られたくは、なかったけど…」

その手は墨だらけで、きっとずっとこの子は、潮江によくやったって褒められたくて、練習していたんだろう。
自分の字が上手くなれば潮江の逆ハー補正が解けるんだって、根拠もなく信じているのかもしれない。
外でやっていたのは、委員会に出ない潮江でも目に入れば気に留めてもらえるかもしれないと思ったから?それとも、ただ必死で場所なんて関係なかった?

「天女様はすきだけど、今の潮江せんぱいは大っきらい…っ!!」

ぼろぼろと涙を溢しながら叫ばれた大嫌いは、本当の意味での大嫌いには聞こえなかった。好きだから、尊敬しているから、まだ諦めたくないから、そんな――

墨で書かれた文字が滲んだ。

俺は目を細め、その場にしゃがみこむ。少年は相変わらず俺を見なかったが、俺は構わず口を開いた。

「…君の名前は?」
「加藤団蔵、です」
「そう、団蔵君。俺が潮江の馬鹿の目覚ましてやるから、もう少しだけ字練習して待っててな?」

俺は優しく団蔵君の頭を撫でた。
団蔵君はやっと紙の束から視線を外し、俺を見た。

「っ…はい」

俺は泣きながらも笑顔で言った団蔵君に優しく微笑み、またな、と最後にもう一度だけそのまだ小さな頭を撫でてから伊作さんの部屋まで走った。

うん、ちょっと潮江に関してのやる気出たかな。というか…使命感?



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