立花が俺を呼んでいるらしいので、変身できる程度に体が回復してから同室者誰だろうな謎の解けた立花の部屋に行った。
三秒程度の軽い挨拶後、立花が言った俺を呼んだ理由はこうだ。

「寝言が煩い」
「それは許してやれよ」

寝言禁止とかお前どれだけ鬼畜だよ。潮江可哀想だろ。
真顔で会話していた俺と立花だが、立花は急に表情を暗くした。

「…アイツ、そろそろまずいんです。頼みます、今日の夜中部屋に来てくれませんか」
「…わかった」

立花が頭を下げるとは、よっぽどか。

俺は早めに伊作さんの部屋に帰ろうと思ったが、今の20秒ないぐらいの間で伊作さんが帰って来ていたため、立花に手配してもらった俺の部屋で湯飲みに戻った。
早めに戻ったかいあって身体はまだ全然痛くない。これなら夜中になってからもう一度変身できるはずだ。

団蔵君とも約束しちゃったしなぁ。





明かりを灯す者のいない部屋が真っ暗になった頃、俺は足音を立てないように立花と潮江の部屋に滑り込んだ。

「ッ…ぅ、ぁ」

え、あの、すみませんお楽しみ中に。失礼しました。

と、声だけ聞いたらそう聞こえなくもないが、そんな話ではなかった。
立花はまったく手出ししていないし、潮江は布団に横になったまま声を出している。
立花は俺の気配に気づいたらしく、此方を見た。

…立花さん、あのこれ寝言って言うか、超うなされてんじゃねぇかよ。

「来てくれたんですね」
「…何だよ、これ」
「まぁ、待ってください。そろそろ発作が起きますから、そうなったらよろしくお願いします」

何を?!てか、え、発作?!それ、俺がどうこうする問題じゃなくね…?保健室行った方がいいんじゃねぇの…?
俺の常識的疑問など知るよしもなく、立花はまた潮江を見た。

ふと、潮江の呻く声が止んだと思ったら、急に潮江が布団から起き上がった。その目は虚ろだ。え、大丈夫なの?これ。

「天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様天女様」

こ……こ、怖ぇえええええええ!!ちょ、何この子病んでるッ!立花さん、無理!コイツは俺の手には負えないッス!俺、ヤンデレは専門外なんです…っ!

「さぁ、ヒーロー出番です」
「いや、お前むしろどうして俺ならこれをどうにかできると思った」
「ヒーローでしょう」
「煩ぇよ」

小声で俺と立花が言い合っていると、ふと潮江の目がゆらりと揺れて此方を見た。目が合う。

「ッそうか、あの時もお前か!貴様、俺に何をした…!!」

え?何か、急に殺気出して怒り出した。ヤンデレわからない。怖い。とりあえず息荒いし、顔青ざめてるし、具合悪そうだから寝てた方がいいんじゃねぇの?

「っ…ちっ、天女、様…」

舌打ちしたと思ったら、天女様と虚空に手を伸ばし――気絶した。

ど、どうしよう。多分シリアスな場面なんだろうけど、俺一人展開に付いていけてない。
おい、ちょっとそこの訳知り顔の立花、十文字以内に状況を説明しろ。

「とりあえず…これで良かったのか?」
「今までよりはおそらく。…時間大丈夫ですか?」
「うん、ヤバい」

何気ない感じに命の灯火が消えかけている。

「すまんが、後は任せた」
「はい」

伊作さんの部屋に戻るべく襖を開けた。

「天女の起こす現象について、私の考えを次までに紙に纏めておきます」

後ろから聞こえた声に振り返り、笑顔を向ける。

「…ありがとー!」

立花の好感度が上がった。
何かコイツ、ちょくちょく好感度上げて来るよな。やっぱ俺と正反対なタイプだから、色々為になるんだよな。主に頭脳的な面で。

俺は眠っている伊作さん(と食満)の寝顔に穏やかに微笑んだ後、着物を素早く畳んで湯飲みに戻った。


ああ、それにしても潮江のあの様子…意味はわからないけど、でも、立花の言葉を思い出した。

「忍たまで一番辛いのは、きっとアイツです」

俺は、逆ハー補正にかかってる奴の気持ちを知らない。食満が後悔して、綾ちゃんが嫌悪して、立花が最悪だと言った。
逆らおうにも逆らえない、絶対無二の力。

まずいな。
潮江は伊作さんの敵であるのには変わらないし、大っ嫌いなのに――

それ以上に助けてやりたいとか、思ってしまった。



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